ふたり、溺愛中
第14章 紫の憂鬱
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オーダーが入り、次のオーダーが入る前の隙に化粧室に戻ると、指を喉の奥に入れて嘔気を誘った。
「ぅ…………か はぁっ」
ビチャビチャビチャ…っ
そして胃の中のアルコールを流しに戻すと、水道の水をコップに汲んで口をゆすぐ。
「……はぁ…はぁ…はぁ………」
胃が吸収してしまう前に、早く飲んだアルコールを吐き出すのはプロのホストなら当たり前の業だ。
以前は、こんな仕事をしている自分を馬鹿だなと思う事もあったのだが、いつの間にかそれもなくなった。
毎日が黒く淀んでて、毎日が同じ事の繰り返し。
きっと、これからもずっと………
「………………………………」
ふと、お見合いで顔を合わせた、彼女の事を思い出した。
特別美人でもなく、だからって自分を着飾るような事もない、質素な女性だった。
彼女はホストクラブなんてもの知りもしないだろうし、僕がこんな仕事をしてるとは思ってもないだろうな。
「……………………」
僕に興味も示さないような女性は、初めてだったな。
もしや余程の物好きか何かだろうか?
「…………………………」
いつの間にか彼女の事ばかり考えていて、時間が経っていた事に気付いたのはスタッフに呼ばれた時だった。
結婚か……
どうせするなら、あんな鈍感そうな子の方がいいかもしれないな。
うん、そうと決まれば…!