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ふたり、溺愛中

第14章 紫の憂鬱

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『あ、もしもし紫苑?
ねぇ、今夜会える?』



「やぁ。
それは、お店に来てくれるって事かな?」



『違うわよ!
ふたりで会いたいって言ってるの』



「それはありがとう」



僕が紫苑だと特に思い知らされるのは、この彼女と接している時だ。




『それはそうと、紫苑はサインしてくれた?』


「え、何の事かな」


『もぉ!とぼけないで!!
この前と時に預けたじゃない!
あたしと紫苑の婚姻届』




やれやれ…
いい加減やめてもらえないかなと思うよ。


彼女に世話になって随分経つのだが、とうとう最近は結婚しろときたもんだ。




『紫苑の所はサインしてくれた?
住むのは、ゆっくりでいいのよ。うちはいつでも空いてるんだから』




結婚か…。
結婚すれば、僕を手に入れたつもりなんだろうか。


心は、決して手に入れられたつもりはないんだけどね。





『大丈夫よ。紫苑は何も変わらないんだから、心配しないで。
サインしたら、後はあたしに任せてくれたらいいんだからね』




何も変わらない…か。

じゃあ君は、何の為に結婚したいんだい?



僕の名前も知らない癖に。

君が結婚したい相手は、僕じゃなくて僕の形をした"紫苑"なだけだろう!





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