ご主人様は突然に
第3章 お持ち帰りですか?
「おいっ泣くな……」
声をかけるとガバッと顔が上がり
「まだ現役なんだよっ!!」
マナカは鬼のような形相で叫ぶ。
……泣いてねぇし。
つーか、現役ってなんだよ。
もう好きにしてくれ、
と次の言葉を待ってると
「お前が私を戦力外でもなっ
私はまだまだ現役なんだよ!
何度も抱き合ったのも
愛してるって言葉も
ぜんぶ……嘘だったわけ?!」
徐々に表情が変わっていく
「¨マナカの身体は俺のもの¨
って言ってたじゃん……
私だってカズだけを
ずっと愛してくつもりでっ……」
苦しそうに顔が歪んでいく
「なのになんでっ?!
相談くらいしてくれても良くない?
一人で抱えて……浮気して……
妊娠させてさ……」
大きな瞳に涙が溜まっていく
「他にいい人見つけろって
意味分かんないよ……
私みたいないい女と別れたら
後悔するって分からないわけ?
このバカ野郎ッ!」
「……マナカ……」
頬にこぼれ落ちた涙の粒を
そっと拭ってやると
「もう好きじゃないの?
私じゃだめなの?
好きじゃなくてもいいから、
お願いカズ。
……最後にもう一度、抱いてよっ」
掴んだ場所を引き寄せ
マナカは俺にキスをした。
でもそれは
ただ触れるだけのキスで
すぐにくちびるは離れた
「……っ!?」
離れたのはくちびるだけじゃなくて
俺の胸ぐらを掴んだ手はもちろん
身体もソファーの方へ傾いた
「あっ………ぶね……」
とっさに庇った腕の中で
スゥーと寝息を立てながら
「……カ……ズ………」
ここにはいないヤツの名を呼ぶ
おでこをピンッと跳ねてやると
ピクッと眉が動いた
「……カズじゃねぇよ……」
間違えてんじゃねぇよ。
キスしてんじゃねぇよ。
「ったく……無防備に寝やがって。
襲ってやろうかっ……」
はぁ……
俺もたいがいバカ野郎だ。
お子ちゃま同士がするような
こんなキスで……
「……起ってんなよ……」
マナカの濡れた頬に触れる
「この酒乱女がっ……」
毛布をかけてやってから
下半身の熱を鎮めるために
風呂場へ向かった。