ご主人様は突然に
第3章 お持ち帰りですか?
二十人弱の人間で
カラオケの個室は埋まっていた
既婚者が四、五人抜けたとはいえ
二次会でこの人数はなかなかの大所帯だ
今は誰だったか……
たぶん鈴木くん(仮)が
マイクを握りしめ大熱唱中
知らないロック調の歌は
いつもなら耳障りでしかないけど
今日は気にならない
¨それを左へ受け流す~♪¨
今の私はまさにそんな感じで
違うことに思考を奪われていた
「ねぇ……アヤ。
カオルのこと、どう思う?」
私が尋ねるとアヤは目を見開き
首を大きく横に振る
「……ナイナイ。カオルはナイ!」
「違う。そういうことじゃなくて!
……なんて言うか
カオルのマナカに対する態度ってさ、
なんか……特別って感じしない?」
首をひねりながらつぶやくと
「ああ、そっちね。
そりゃー……カオルが
マナカのこと好きだからでしょ」
衝撃事実が返ってきた
「はっ?!まじ?」
「嘘ついてどうすんの。
まぁカオルって分かりにくいからね。
たぶん気づいてるのって
私くらいやなーい?ハハハッ」
なにが楽しいのかアヤは笑う
でも私は嫌な汗をかき始めた
「じゃっ、じゃあっ
カオルにマナカのこと任せたのって
間違いだったんじゃ……」
「普通ならそう思うね。
でもカオルは大丈夫やと思うよ」
「なんで?!」
「んー、女の勘?」
「勘って……他に理由ないの?」
そう尋ねるとアヤは
焼酎を口に含んで考え始める
つられて私も酎ハイを口に含んだ
だって……カオルだよ!?
知り合った時から
常にチャラチャラしてて
頭良くてなんでも器用にこなすし
あの顔だから女子にもモテて
本命を作らず不特定多数の女子と
絡みまくってたであろう
あのだらしないカオルだよ!?
いや、そういう噂があっただけで
本当に絡みまくってたかは
分かんないけどさ……
「……ナナコ。
あんたは分かりやすくて助かるわ」
アヤがハハッと笑う
「えっ。……顔に出てた?」
「出まくり。
まぁカオルは誤解を与えやすい
タイプやもんなぁ。
まさに誤解してるナナコに
カオルの秘密、教えてあげよっか?」
そう言ってアヤはにやりと笑った。