ご主人様は突然に
第3章 お持ち帰りですか?
カオルは首以外の場所には
一切触れようとはしなかった
逆に言えば、首しか触らないわけで
何度も何度もチクッという
痛みに顔をしかめていた
「……はぁ……カオル……
もうやめてよっ……もうやだ……っ」
なんだか泣きそう。
鼻声になってる私の声色を聞いて
カオルは首筋から顔を上げる
「泣くなよ……」
私の顔を見るなり眉を下げて
そうつぶやいた
「……誰のせいよっ……」
「今日はこの辺にしといてやるから」
「今日はぁ?!」
またこんなこと、されるわけ?!
目を見開く私の身体をカオルが起こす
今日はこれで終わってホッとしたけど
またあるなんて、冗談じゃない
「いやよ。今回はたまたま会って
いろいろとお世話になったけど……
あんたとはもう会わない」
「あ“?なんでだよ」
「カズ……幼なじみの妻に
こんなことするなんて、ありえないって
言ってんの!あんたなに考えてんの?!」
「アイツが浮気したんなら
お前だって浮気のひとつくらいしても
いいんじゃねぇの?
てか、カズとはどうすんの?」
話を変えやがった。
浮気されたらやり返すって考え方が
カオルらしい気もするけど。
「あんたといっしょにしないでよ。
浮気も、やり返したりも私はしないから」
「ふーん?」
カオルが意味ありげに笑う
「な、なによ?」
よく考えれば身体を起こされた拍子に
カオルの膝の中に座っていた
この体勢はちょっと……
身体を引こうと手足に力を入れると
腰をグッと引き寄せられた
「証拠があると、話は違うんじゃねぇ?」
「は?証拠?……てか、腰ッ。触るな!」
腰に回された手を剥がそうとすると
カオルの指が首に触れる
ピクッと反応すると
鎖骨の上辺りを撫でられた
「な……に……」
「ここに浮気の証拠があるけど。
……カガミで見てみ?」
アゴで差されたのは
部屋の隅に置かれた姿見鏡
証拠って……
腰から手が離れ自由になった
なにも言わずにベットから降りて
鏡の前に立ち、首もとを見た
「……っ!……」
数ヶ所が赤黒くなっていて
普段の首とは……別物になっていた。