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ご主人様は突然に

第4章 佐藤の憂鬱




「とりあえず、あの場にいたメンツは
岩熊さんがお持ち帰りされたなんて
誰も思ってないはずだよ」


「えっ!ホント?!」


「う、うん……」



安心させようと発した言葉に

岩熊さんは目を見開いて

勢いよく俺の腕を掴んできた



前触れのないボディータッチと

無意識に距離を詰められたことで

うるさいほど胸が高鳴る





中学生かよ俺……



「はぁ……良かった。
ひとまず安心……
既婚者なのにそんな誤解されちゃ
さすがにマズイもんね?」


「そ、そうだね……」



苦笑いだった表情が少しゆるみ

冗談っぽく首をかしげていて可愛い



いや……本当は岩熊さんとなら

いくらでも誤解されていいんだけどね。



本気だから、冗談では言えない



「ね、岩熊さん」


「なに?」


「俺に……キスしたのも覚えてない?」


「えっ……」



岩熊さんは驚いて

俺の腕から手を離そうとした―――



「離さないで。俺を見て」



けど、離させやしない



「さ……佐藤くん……?」



痛くない程度に掴まれた手首と

俺の顔を交互に見て戸惑っていて



困惑した表情でさえ、愛しく思う



「安心して。くちびるじゃないから」


「あ……そうなんだ……」



あからさまにホッとされて傷つく



「ごめんね佐藤くん。
もう間違えないようにするから……」



それは、どういう意味なんだろう



酒を間違えないってこと?



それとも

間違えても俺にはキスしないってこと?





高校の頃なら確実に追及しなかった



いや、あの頃は追及できるほどの

関係ではなかったけど……



「いや、間違えていいよ。

……むしろ間違えて欲しい」


「え?」


「酔ってたとしても……

岩熊さんにキスされて俺、
すごく嬉しかった」



いくら鈍感な岩熊さんでも

ストレートな言葉の前では

普通の女性と変わらない



「……佐藤くん……」



それでもかなり驚いてるのは確かで



「俺……、岩熊さんが好きなんだっ」



目をさらに見開いて

身を固くしているのをいいことに

その身体を抱きしめた。


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