ご主人様は突然に
第4章 佐藤の憂鬱
抱きしめた身体は
何度も想像したどんなものよりも
ずっと柔らかくて
ほどよく締まってて細すぎなくて
俺にとって理想的な身体だった。
この身体で……母親なんだよな。
うわ……、岩熊さんの匂い……
鼻先をかすめる長い髪からは
シャンプーの香りがして
いい香りがしてたのは¨これか¨と
変態チックにならない程度に
鼻呼吸を繰り返して
岩熊さんの香りを堪能していた
あぁ……ヤバいかも……。
血液が下半身に集まるのを感じながらも
抱きしめることはやめなかった
勝手に抱きしめたからには
それなりのリスクが伴うことは
重々承知している
変態扱いされて二度と会えなくなるか
軽蔑されて二度と会えなくなるか。
どちらにしても
¨会えなくなる¨という結論しか
数秒前の俺は持ち合わせてなくて
どうせ会えなくなるなら
最後くらい抱きしめてもいいよね?!
という、あまりにも自分勝手な思考が
今の現状をつくりあげている
「あのぉ………」
身体を動かさず黙ったままだった
岩熊さんがやっと声を発した
でも声色を聞くに
困惑より不思議そうな雰囲気で
違和感を感じた俺は鼻呼吸を止めて
続くであろう言葉に意識を集中させる
「私のこと好きって……女として?」
「っ!?」
ここまでしたのにーーーっ!?
ガバッと身体を離して
コクコクと必死に頷いてみせると
岩熊さんはハハハッ……と
愛想笑いを浮かべていた
「あっごめんね?
私、ホントに恋愛経験が乏しくて……
というか、ほぼないまま結婚したから
カズ以外の男性から¨好き¨なんて
言われるの初めてで……
どうしたらいいか分かんない……」
岩熊さんは照れくさそうに
うっすらと頬を赤くしていて
なにその顔……
可愛すぎだって。
そんなの見せられたら
男としては手を出さない方が異常だ
「分かんないなら……
これから知ってけばいいよ」
「えっ?」
「……ごめん。
あとで殴っていいから……」
「ちょ……佐藤く……」
岩熊さんの頬を両手で包み込み
少しぶ厚いくちびるを奪った。