ご主人様は突然に
第4章 佐藤の憂鬱
俺がコクンと頷いてみせると
落合は視線を岩熊さんに移動させた。
「……モナカ。ちょっと離れてろ」
そう言って強引に
岩熊さんをベンチから立たせる
「え?……なに……」
わけが分からないという表情のまま
落合に腕を引かれていき
岩熊さんは少し離れたベンチに
座らされていた
そして落合が俺の元に戻ってくる。
……わざわざ離れさせたのは
今からの会話を
岩熊さんに聞かれたくないから?
そう思ってると
目の前まで戻ってきた落合が
俺を見てにやりと笑う
「なに、笑ってんだよ?」
「別に~?
つーかお前、アイツのこと
まだ、好きだったわけ?」
「なっ……!」
まだ、とはなんだ。失礼な。
好きでいて悪いのかよ。
「お、落合には関係ないだろ」
「そりゃそうだ。
でもな、アイツは俺がもらうから」
「はあ?もらうってなんだよ!
第一、岩熊さんはまだ人妻だろ!」
「その¨人妻¨に手ぇ出したのは
どこのどいつだっけ?」
「うっ……」
確かに手ぇ出したけど!
思いっきり指入れちゃったけどもっ!
あ、あんなシチュエーションじゃ
我慢できないって!
言葉に詰まってると
落合はチラッと岩熊さんを見て
表情を少し緩ませた
「手ぇ出したくなる気持ちは
分からなくもねぇけど……
アイツはまだ、あくまでも人妻で
離婚するまでは¨カズのもの¨だ」
言い終えた落合の横顔が
泣いてしまいそうに歪んでて
意外な一面を目の当たりにして
落合から目が離せなかった
コイツ……こんな顔もすんのか……
いや……、
俺はこんな顔をどこかで……?
あっ……そうか。あの時だ。
ふと―――
高校の頃を思い出していた。