ご主人様は突然に
第4章 佐藤の憂鬱
落合とは
三年になって同じクラスになったけど
クラスが違った一年の頃から
その存在だけは知っていた。
俺と同じクラスの女子が
¨二組の落合くんがヤバい!¨
と騒いでいたからだ
きっと学年、いや全学年で
落合を知らないヤツなんて
いないんじゃないかと思うほどで
最初は気にしてなかったものの
¨岩熊さんと緒方¨のそばに
いつもいる落合を見かけてから
なんとなく意識するようになった
始めは落合も岩熊さんのことを
好きなのかと思っていたが
¨落合は女タラシ¨
という噂を聞いてからは
俺の勘違いなんだろうと認識し
岩熊さんを視線で追う日々が続いた
だけどそんなある日
同じクラスのヤツが
岩熊さんに告白しようとして
断念したという話を耳にした
よくよく聞いてみると
岩熊さんに近づこうとする男に
落合が睨みをきかし
近づけさせないということで
岩熊さんに告白どころか
話しかけることもできなかったらしい
岩熊さんと緒方が相思相愛だと
周囲の誰もが知っていただけに
落合は親友である緒方の
恋路を邪魔されないように
そんなことをしているのだと
岩熊さんに想いを寄せる人間の間では
その話題で持ちきりだった
それでも俺は想いを伝えたくて
岩熊さんが一人になる瞬間を
いつも見計らっていた
そして一年の終わりに
チャンスが訪れる
寝不足で保健室でサボッてると
体育の授業で突き指をした
岩熊さんが保健室にやってきたんだ
¨失礼します¨という
たった一言で岩熊さんだと気づき
養護教諭に手当てしてもらいながら
会話してる岩熊さんの声を
盗み聞きしていた俺は
岩熊さんが保健室から出ていく
タイミングでベットから飛び出て
岩熊さんに声をかけた
なんと声をかけたかは
緊張しすぎて忘れてしまったけど
確か、放課後、屋上に来てほしい
と言ったと思う
そしてその日の放課後―――
屋上に現れたのは落合で
『……岩熊は来ない。
好きになるだけ無駄だから
諦めて他の女にしとけ』
驚愕する俺に向かって
顔を歪めながらそう言ったんだ。