ご主人様は突然に
第4章 佐藤の憂鬱
屋上での落合の言葉は
俺をとても落胆させた。
どうして岩熊さんは
来てくれなかったのか
岩熊さんから言われるならまだしも
落合から諦めろと言われるなんて
到底、納得できなくて
屋上のドアを開けようとする
落合を引き留めて問い詰めると
大げさにため息を吐かれた
『だから、岩熊は
カズ……緒方を選んだんだよ。
えっと……、お前、佐藤だっけ?
行けなくてごめんなさいって
伝えてほしいって言われてたわ。
分かったろ?
岩熊は緒方しか見てないんだよ。
たぶんこの先ずっと、な。
早いとこ諦めた方が身のためだぞ』
口調は普段どおりなのに
落合の表情はなぜか分からないけど
さらに歪んでいて
当時の俺は自分のことで精一杯で
落合の気持ちに気づかなくて
いや、気づこうともしなかったんだ
―――でも今なら分かる。
あの日の落合の表情の意味が
やっと分かった
「……つーか、落合だって
人のこと言えねぇじゃん」
「あ?」
「岩熊さんのこと、
昔から好きだったんだろ?
なんで隠してたんだよ?」
ため息混じりに尋ねると
落合は腕を組んだ
もう表情は普段どおりに戻っている
「別に隠してなかったけど?
むしろ俺オープンにしてたし」
「オープン?」
「ああ、カズには
自分の気持ちを話してたし
アイツ……マナカにも
普通にアピールしてたけど」
緒方に話してたのか?
しかも岩熊さんにも
アピールしてたって……
ん?待てよ?
落合は女タラシって噂は?
「え……でも、落合……
いろんな子と付き合ってるって
噂があったし……」
「噂は噂だろうが。
そりゃー遊んだり相談のったり
¨友達として¨付き合ってたけど
それはあくまでも健全なやつだ」
「まじか……」
気が抜けた声を出すと
落合はのんきにアクビしていた
「つーか、知りたいのって
¨ご主人様¨の方だろ?」
「あ……うん」
そうだ。ご主人様ってのが
どういう意味なのか知りたいんだ。