ご主人様は突然に
第4章 佐藤の憂鬱
黙り込む俺たちを見かねてか
落合が岩熊さんの腕を掴んだ。
「……さっさと帰るぞ。
遅いとトムさんがうるさいだろ」
「あっ……ちょっ……」
強引に腕を引かれながら
岩熊さんが俺に振り返る
「佐藤くん、またね!」
「えっ!……うん、また!」
そう返すと岩熊さんは
わずかに微笑んでくれて
「っ……!」
俺は簡単にノックアウトされた。
ズルいなぁ……
身体からさらに力が抜けていき
ベンチに背をもたれて空を仰ぐ
「はぁー………」
朝方の空って
こんなキレイだったっけ……?
しみじみと空を見上げるなんて
いつぶりだろう。
「やば……」
¨またね¨って言って
微笑んでくれるなんて……
次があるってことだよな?!
期待していいんだよな?!
すっげぇ嬉しくて
にやにやが止まらない
たぶんあの頃よりも
想いが増してる気がする。
それと同じくらい
落合への嫉妬心もすごい。
アイツ、すげー自然に
岩熊さんの腕掴みやがって……
実家に行くのも平気なのかよ?
てか、トムさんって誰だ?
俺が知らない岩熊さんのことを
落合はたくさん知ってて
そりゃあ落合は
岩熊さんのそばにいたから
知ってるんだろうけど
近づくことすらできなかった
あの頃を思い出すとまじで悔しい
「……てかっ!
身体を隅々まで知ってるって
まじなんなんだよっ!?」
声を張れば張るだけ、むなしい
はぁ、とため息を吐いていると
ポケットの中が震えた。
……電話?
震え続ける携帯の画面を見て
悪い意味でドキッとした
うわ……どうしよ……
「……もしもし」
恐る恐る声を出すと
「今どこっ!?」
興奮気味な声が聞こえてきた
「それが………」
ごまかすより
正直に話した方がいいと悟り
おおよその展開を説明すると
ブチッと電話が切れた。