ご主人様は突然に
第6章 家事手伝い、スタート
「誰がお兄ちゃんだって?」
「ちょっ……」
エレベーターが閉じるとすぐ
カオルが私を隅へ追いやる。
首をかたむけて私を見下ろし
無駄に顔が近い。
「俺の妹になりたいわけ?」
「んなわけないでしょ。
勘違いされたくないだけ!」
「勘違い?」
「さっきすれ違った人
私を見た途端すごい顔してたし
アンタ狙いなんでしょ」
「それがどうした」
カオルは特に気にしてないのか
顔色ひとつ変えない。
「どうしたって……」
「さっきの女に興味ねぇし
勘違いされようがどうでもいいだろ」
「あのねぇ、どうでもよくないから。
私はあくまでも家事手伝いで―――」
それ以上ではないんだから。
そう言おうとすると
チーン!と音がして
エレベーターが止まり扉が開いた。
壁とカオルの間から
スルッと身体を抜けさせて
エレベーターを降りると
「こっち」
続いて降りてきたカオルが
私の腕を引いて部屋へ向かう。
「ちょっ、一人で歩けるって!」
カオルは私の言葉を無視して
部屋の鍵とドアを開ける。
「先に入れよ」
「あ、うん」
促されて玄関に入ると
後ろでガチャンと鍵の閉まる
音がして急にドキッとする。
よく考えたら今
二人きりなんだよね……
いやいやいや!
カオルと二人きりだからって
どうってことないし!
気を取り直して靴を脱ぎ
廊下を真っ直ぐ進むと
20帖はありそうな広いリビングで
テーブルやソファーなど
必要最低限のものしかない。
見る限りキレイにされてて
私が来る必要がない気がした。
「キレイにしてるじゃん。
これなら私来なくても―――」
振り返ろうとした私を
カオルが後ろから抱きしめる。
「えっ……?」
「今日はキレイにしといた」
「はあ?なんで。
てか、くっつくな!!」
「いいだろ、少しくらい。
あー……落ち着く……」
「私で落ち着くな!変態!
セクハラ!放してよっ!」
ジタバタしても力じゃ敵わないから
思いっきり足を踏んでやると
「ぐっ!!」
くぐもった声を出して
カオルの身体がやっと離れた。