ご主人様は突然に
第6章 家事手伝い、スタート
ケーキを食べ終わってから
使った皿やマグカップを洗う。
簡単なことだし
洗い物も嫌いではない
嫌いではないけど
今はとてつもなく、やりにくい。
「……ねぇ、ちょっと!」
「んー?」
「んー?じゃないし。
この体勢はなに!」
「あー……」
洗い物を始めてすぐ
なぜかカオルは私の後ろに立って
ピタッと身体を寄せてきた。
しかも肩にアゴを乗せてるから
重いし身動きが取りにくい。
本来なら、こういうスキンシップは
旦那や彼氏、好きな相手とすること
カオルはどれにも当てはまらない。
カオルだけは
どれにも当てはめたくない。
「ちゃんと洗えてるか
チェックしてんだよ」
「チェックゥ?!
洗い物くらいちゃんとできるから!
ほら終わったから、もういいでしょ!」
そう言うと少し身体が離れる。
ホッとしてタオルで手を拭いてると
ふいに首のバンソウコウを触られて
ビクッとした。
「な、に……」
カオルの顔を見ずに声を出すと
「今時バンソウコウって……
ファンデーションで
隠せばよかったのに」
ため息混じりの声が耳に届く。
「バンソウコウしか
思いつかなかったのよ」
「だから俺がうまく
隠してやろうと思ったのに。
人の話を聞かねぇで
勝手にウチを飛び出るから……」
「だって話どころか
あのままここにいたらっ―――」
思い出すのは
ベットで私を優しく抱きしめる
カオルの体温と匂い
もし逃げなかったら
流されてたかもしれない。
頭や心とは裏腹に
私の身体はカオルに触れられて
確実に反応してたから。
「あのままここにいたら?」
声を低くしたカオルは
まるで私の言いたいことが
分かってるかのようで
なにかを言ってしまったら
今まで守ってきたものが一瞬で
壊れてしまうような気がして
「な……んでも……ない」
そう言うので精一杯だった。
「ったく……素直じゃねぇなぁ」
「っ……!」
「素直になれるまで待ってる。
今度こそ逃がさねぇ……マナカ」
耳の下にそっと口づけしながら
カオルは私を抱きしめた。