ご主人様は突然に
第6章 家事手伝い、スタート
しばらく私を抱きしめたあと
カオルは呆気なく身体を離した。
……え?
無言でスタスタと足を進め
長い足を持て余しながら
ソファーに座ったと思えば
ふんぞり返り、まぶたを閉じている。
眠いの?
様子を伺いながらソファーに腰かけると
足音やソファーにかかる重みに気づき
カオルがまぶたを開いて私を見る。
その瞳からは感情を読み取れなくて
「……少し寝るわ。適当にしてて」
「あ、うん……」
私の返事を聞いて再びまぶたを閉じる。
「………」
カオルの無駄に長いまつげが
微かに揺れるのを見つめながら
ふと、昔のことを思い出した。
カオルと出会ったのは
私たちがまだ幼い頃
何歳の頃だったか忘れたけど
父の友人であるテツロウさんに
連れられてカオルはやって来た
サラサラの髪にパッチリ二重
スッと通った鼻筋に形のいい唇
その頃からカオルの顔は
すでに整っていて
可愛い雰囲気を残しつつも
確実に男の子で
同級生の誰よりカッコ良かった
おませな女の子だった私は
当然カオルに胸をときめかせていて
ウチにカオルが遊びに来るのを
心待ちにする日々を送っていた。
―――でも私たちは幼なじみじゃない
お互いの実家はそんなに離れてない
むしろ近いほう
だけど私たちの実家の間には
小さな川が流れていて
その川を境界線として
通うべき学区は分けられていた
そういう事情もあり
カオルとは小・中学校は別々で
数ヶ月に一度、ウチで会うか
岩熊家と落合家の家族同士で行く
旅行やキャンプで顔を合わせるだけの
¨同級生のカオルくん¨だった
小学生の頃のカオルは
生意気なところもなくて優しくて
私たちは仲が良かった
いっしょにお風呂も入ったし
同じベットや寝袋で寝たりもした
―――それでも私たちは
どうしたって幼なじみじゃない
もしかしたら
幼なじみと呼べるのかもしれないけど
所詮は親同士が気まぐれに会わせただけの
¨知り合い以上、幼なじみ未満な関係¨
私はそう思っていた
カオルがどう思ってたのかは
分かんないけど
私たちの関係はとても曖昧で
不確かなものだった。