ご主人様は突然に
第6章 家事手伝い、スタート
「……おい…………マナカッ!」
「……へ?」
肩を揺すられて気を戻す
いつの間にか、寝ると言っていた
カオルが私の隣に座っていた。
何事かとその顔を見てみれば
なぜか眉をひそめている。
「えっ……、なに?」
「なにじゃねぇよ。ボーっとして。
体調、悪いのか?」
「ううん……」
「ホントか?嘘はつくなよ。
お前はきつい時に無理するからな」
「ホントだって。無理もしてない。
ただ、考え事してただけ」
「考え事ねぇ……。まぁいいや。
きつい時はちゃんと言えよ」
「うん……」
ホッとため息を吐いて
カオルはキッチンへ向かい
冷蔵庫からペットボトルを取り出して
ソファーへ戻ってきた。
「ほら水分補給しろ」
「あ、うん。ありがと……」
ペットボトルを受け取り
素直にお礼を伝えると
カオルはフッと表情を緩めた
声は上げないし分かりにくいけど
目元が穏やかになって
一瞬だけ口角が上がる
カオルの笑い方は本当に分かりにくい。
分かりにくいけど
そんな笑い方になったのは
たぶん私のせい
……ごめん、カオル。
あの時―――
最後に会った時、私は嘘をついた
¨好きな人ができたんだ¨
たった一言でカオルを試した
カオルが私のことをどう思ってるか
気持ちを知りたくて
ついてはいけない嘘をついた。
ずるいとは思ったけど
あの頃の私はそんな方法しか
考えつかなくて
その先の未来なんて
想像もできないほど子どもだった。
そして
カオルはしばらく黙って
¨そっか¨
そう言って、分かりにくく笑った
カオルがウチに来たのはその日が最後
それがカオルの¨答え¨なんだと
同じ学校じゃなくてよかったと
やっぱり幼なじみですらなかったんだと
思い知った。
だから
少し優しくされるだけで
心が、むずがゆい。
……優しくしないで。
優しくされる筋合いなんてない
なんで……優しくするの?
「……なんで……泣いてる?」
「……え……」
カオルに頬を指でなぞられて
自分が泣いてることに気づいた。