ご主人様は突然に
第6章 家事手伝い、スタート
「えっ……なんで……?
ごめっ、なんでもな―――」
頬に触れるカオルの指を
離そうとして
逆に手を掴まれてしまった。
「……なんでもなくて泣くかよ。
なにを、考えてた?」
「ちょっ……」
「ちゃんと話すまで離さない。
家に帰りたかったら、話せよ」
心臓を射抜くような
鋭い眼差しを向けられて怯む
こういう時のカオルは
なにを言っても無駄だと知ってる。
なんで……
「お前はため込みすぎ。
さっさと吐いて楽になれ」
なんで……
「泣くのは悪くねぇよ。
泣く理由が重要なんだ」
¨こういう時¨
無駄に優しくするの?
弱いところなんて見せたくないのに。
「……カズ……のこと……」
カズの名前を口にすると
ほんの一瞬だけ
私の腕を掴んだ手の力が緩んだ
「昔のことも……思い出して……」
「……昔?」
¨昔¨というのがいつなのか
カオルは分かるはずもなく
言葉の続きを待っている。
「……中学生の頃……
カオルに振られたこと思い出して……」
「は?……振った、の間違いだろ」
「……え?……私……
振った気なんて全く……」
そもそも、あれは嘘だし。
首を傾けると
カオルが目を剥いて
距離を詰めてきた。
「なに言ってんだよ!?
あの日お前が¨好きな人ができた¨
つったんだろーが!!」
「あ……あれ嘘なの。ごめん……
本当は好きな人なんていなかった……」
あの嘘はカオルの気持ちと
私自身の気持ちを
確かめるためだった。
「嘘ぉ!?……お、おま……
俺が……どんな思いで……!」
カオルが珍しく動揺して
私の肩を強めに掴む。
「なんでそんな嘘ついた?!」
「私たちの関係を……知りたくて」
「関係?」
「ただの知り合いなのか
それとも幼なじみなのか……
ハッキリさせたかったの」
「はあ?意味分かんねぇ。
てか、ただの知り合いじゃねぇだろ!」
「えっ……」
カオルの顔が苦しげに歪む。
なんでそんな顔……
「カオル……?」
目の前の頬へ手を伸ばすと
カオルは強く瞳を閉じた。