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「うらやま」

第2章 ヨシくんの記憶

この大きな池まで記憶はうっすらあるけど、あまり覚えていない


ほとんど来たことがなかったと思う


大勢で遊ぶときは最初の広場で野球ごっこしてたし、アキちゃんと遊ぶときは次の広場か岩場までだった


この沢の斜面は数回来たような気がするけど、かなり遠かったので早々に引き上げてたような気がする



池のまわりには釣糸だったり黄色いウキが落ちてたりしてる

やっぱり誰かが釣りに来てるんだな


もしかしたら別ルートでもっとカンタンに来れるんだろうか





ボクは背負っていたリュックサックをおろして小さなタックルケースを取り出す

まずは小さなずんぐりとした丸いルアーを試そう

こいつはクチビルのパーツがデカくてすぐに沈んでくれるタイプのルアー


竿とリールは付けっぱなしだから、竿を伸ばしてルアーをつけたらすぐ釣りが出来る


何回か投げてみる


当たりはないけど、しょっちゅう何かが水面を跳ねてる


魚が居てるのは確かだ



狙う場所を変えたりしても全然当たりが来なかった



ルアーを変えようか、それとも池の反対側に移動しようか


ちょっとイライラしてたとき、ふと遠くに人が立っているのが見えた


大人の男の人だった


立ったまま近づいてこないし、立ち去りもしない


ずーっとそこに立ってた


最初は釣り人かな、と思ってたけど手ぶらみたいだった


気にせず釣りを続けていた


そのときはとにかく明日学校で自慢することしか考えてなかった

誰も知らない場所で「俺はブラックバス釣ったぞ!」と言うために



するとルアーが止まってしまった

根掛かりしてしまった!


何回かぶんぶん竿を振ってみたけど、どうにもムリそうだ


仕方ない


竿は立てずに、糸の先からまっすぐ水平にして手でグイっと引っ張った


バチん!


糸が切れた


ルアーは無くしてしまうけど、しようがない

ブラックバス釣りではいつものことだ

タックルケースから、次はどのルアーにしようか考えてるといつのまにか男の人がすぐ近くに来ていた


たいてい釣り人同士はよく話しかけてくる

「釣れますか」てのがいつものパターン


男の人はよく見るとすごい黒い肌だった


もちろん日本人なんだけど、すごい浅黒い人だ


当時は学校にもそんな生徒がたまに居てた

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