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君がいるから

第5章 休日


智が「早く早く!」と俺の手を引っ張って歩く。

「何でそんなに急ぐんだよ」

「いいから!」

やっぱり答えてはくれない。



引かれるままに着いたのは

智の車がある月極駐車場。

「車なら、俺の出すよ?」

「いいから。ほら乗って!」


智はぐいぐいと助手席に俺を押し込めると

さっさと閉めて、運転席に回り込んだ。



こうなったらもう、智に従うしかない。

シートベルトをして

初めての智の運転に身を任せた。






「で、どこに向かってるわけ?」

「んふ。着いてのお楽しみ」

やたらと上機嫌にハンドルを握る智は

やっぱり行き先については答えない。

近場かと思ったら、高速に乗り出して



…何となく嫌な予感がした。


「ねぇ。…まさかと思うけど行きたい所って…」

「んー?」

「智、正直に言って?」



「うん。…釣り」


やっぱりそうか。

「行かないって約束しただろ!帰るぞ!」

「俺、分かったとは言ったけど行かないとは言ってないよ」

にんまりと智が笑う。


あの時の会話を思い出してみて

そう言われてみれば、確かに智は「行かない」とは言ってないことに気が付いた。

やられた…








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