4月は君のぬくもり
第3章 由衣の決断
晶午side
ここはとあるシティホテルの一室。
帰ろうとする俺の背中にすがりつき、懇願する女。
「お願い、もう少しだけ一緒にいてっ」
バスローブを身にまとった彼女は、30代半ばの既婚者で、月に一、ニ度俺を指名してくれる馴染みのお客だ。
「すみませんミキさん。これ以上の延長はできません」
「いやっ、まだ帰らないで。あなたといると、とても安らぐのよ…ううっ」
「…」
また泣き落としだ。しかしここで甘やかしてはならなかった。俺はきっぱりと彼女に言う。
「今日はすごく楽しかったです。
またのご指名、待ってますから。それでは…」
「っ」
バタン
俺は一人ホテルを出た。
今日の仕事はミキさんと待ち合わせて食事を同伴した後、ホテルでボディマッサージを施す事だった。
もちろん本番行為は禁止だが、それ以外は極力何でもしてあげるのが鉄則だった。
腕枕をしての添い寝や、抱きしめて甘くささやいたり。
キスだってする。
その時間だけは、まるで本当の恋人のように振る舞って、相手の心と身体を癒やしてあげる。
それが…
[出張ホスト]という、俺のアルバイトだった。