4月は君のぬくもり
第5章 内緒の同居生活
晶午side
まったく由衣からは目が離せない。気がつくと立ち止まって靴や洋服を見ていたり、変なおっさんに絡まれて困っているし。
こんな人ごみで離れるなって言いたい。
俺は半分きれかかって由衣の後を追った。
はーん。やっぱり音楽教師だけあるな、と感心する。
由衣は楽器のコーナーへ向かっていた。
由衣の足が止まると俺に振り返って言った。
「こんなコンパクトなピアノなら、アパートの部屋にだって置けそうよね?」
「授業に必要なら買えば?」
「うん。値段もそんなに高くないしね。どうしようかな…」
そこへ店員が由衣に声を掛けてきた。
「よろしければご自由に弾いてみて下さい」と。
「いいんですか?」
「どうぞ」
由衣は音色を確かめるように電子ピアノを弾き始めた。
店内に突然流れ出した生のクラシック曲に
いつのまにか人だかりができていた。
中には携帯を由衣に向けている者までいた。