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龍虹記(りゅうこうき)~禁じられた恋~

第1章 落城~悲運の兄妹~

 千寿の背中に自分の名をきっちりと刻み込むことにより、嘉瑛は千寿を生涯、飼い犬として繋ぎ止めることに成功したのだ。背中の紅い傷痕は嘉瑛への隷属の証であった。
 不覚にも滲んでしまった涙を堪(こら)え、千寿は手のひらでそっと涙をぬぐう。クシュンと小さなくしゃみをし、その清らかな肢体を汚れた小袖に包んだ。むろん、用心のために、土で適当に手脚を汚しておくことも忘れない。
 まさか、少し離れた場所―大木の陰から、千寿の白い裸身を執拗な視線で眺めている男がいることなど、そのときの千寿は想像だにしなかった。千寿が天秤棒を抱えて歩き始めた頃、その男―嘉瑛もまた脚音を殺して、その場から風のように去った。

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