龍虹記(りゅうこうき)~禁じられた恋~
第4章 天の虹~龍となった少年~
千寿はたとえ外見は妹と瓜二つでも、内面は妹とは全く違っていた。
初めて千寿と逢ったときのことを、嘉瑛は忘れられない。
匿われていた千寿と妹姫は敵方に捕らえられ、捕虜となり、木檜城に護送されてきた。妹の方は初めから許婚者扱いして城内で客人としての待遇を与えたが、兄の方はあくまでも敵将の遺児として接した。
嘉瑛の前に引き立てられてきた千寿は、強い眼をしていた。海芋の花のように凛として、捕虜となった己れをいささかも恥じることなく毅然としていた。
思えば、あの瞳の強さに惹かれたのかもしれない。
どれだけ打ち据えられても、すべてを呑み込みなお悠然として流れる河のように、千寿の瞳は静謐であった。弱冠十五歳の少年のどこに、そんな強さが秘められているのだろう。あのすべてを超越したかのような瞳が揺れるところを何としてでも見てみたいと、焦がれるほどに思った。
嘉瑛はそれ以降、千寿をまるで飼い犬のように扱った。背中に生涯消えることのない灼き印を捺したのも、折檻のためというよりは、本当は千寿を永遠に自分のものにしておきたかった―実に幼稚な所有欲のためである。
だが、身体に嘉瑛の名を刻み込まれても、千寿はけして卑屈にはならなかった。厩に住まわせ、馬の糞尿にまみれながら、馬の世話を淡々とこなしていた。
嘉瑛は何度か、厩の側を通りかかったことがある。その時、千寿は馬たちにあたかも人間に話しかけるように優しく話しかけながら、その体を拭いてやっているところだった。
―馬鹿な、馬に話しかけたところで、判るはずもなかろうものを。
自分は馬以下の扱いを受けているくせにと、腹立しい想いになった。
しかし、本当に癪に障ったのは、そんなことではない。そのときの千寿の表情が実に生き生きと輝いていたからだ。
到底、意に添わぬ日々を強いられ、鬱々と過ごしているようには見えなかった。
それからだろうか。千寿の動向に必要以上に敏感になり始めたのは。千寿に気付かれぬよう、物陰に潜んでその姿を眺めることもしばしばだった。
そんなある日、嘉瑛は千寿が森の泉で水浴びしている姿を見てしまった。その白い清らかな裸身を目の当たりにしてからというもの、嘉瑛の千寿への恋慕はいっそう募った。
初めて千寿と逢ったときのことを、嘉瑛は忘れられない。
匿われていた千寿と妹姫は敵方に捕らえられ、捕虜となり、木檜城に護送されてきた。妹の方は初めから許婚者扱いして城内で客人としての待遇を与えたが、兄の方はあくまでも敵将の遺児として接した。
嘉瑛の前に引き立てられてきた千寿は、強い眼をしていた。海芋の花のように凛として、捕虜となった己れをいささかも恥じることなく毅然としていた。
思えば、あの瞳の強さに惹かれたのかもしれない。
どれだけ打ち据えられても、すべてを呑み込みなお悠然として流れる河のように、千寿の瞳は静謐であった。弱冠十五歳の少年のどこに、そんな強さが秘められているのだろう。あのすべてを超越したかのような瞳が揺れるところを何としてでも見てみたいと、焦がれるほどに思った。
嘉瑛はそれ以降、千寿をまるで飼い犬のように扱った。背中に生涯消えることのない灼き印を捺したのも、折檻のためというよりは、本当は千寿を永遠に自分のものにしておきたかった―実に幼稚な所有欲のためである。
だが、身体に嘉瑛の名を刻み込まれても、千寿はけして卑屈にはならなかった。厩に住まわせ、馬の糞尿にまみれながら、馬の世話を淡々とこなしていた。
嘉瑛は何度か、厩の側を通りかかったことがある。その時、千寿は馬たちにあたかも人間に話しかけるように優しく話しかけながら、その体を拭いてやっているところだった。
―馬鹿な、馬に話しかけたところで、判るはずもなかろうものを。
自分は馬以下の扱いを受けているくせにと、腹立しい想いになった。
しかし、本当に癪に障ったのは、そんなことではない。そのときの千寿の表情が実に生き生きと輝いていたからだ。
到底、意に添わぬ日々を強いられ、鬱々と過ごしているようには見えなかった。
それからだろうか。千寿の動向に必要以上に敏感になり始めたのは。千寿に気付かれぬよう、物陰に潜んでその姿を眺めることもしばしばだった。
そんなある日、嘉瑛は千寿が森の泉で水浴びしている姿を見てしまった。その白い清らかな裸身を目の当たりにしてからというもの、嘉瑛の千寿への恋慕はいっそう募った。