龍虹記(りゅうこうき)~禁じられた恋~
第4章 天の虹~龍となった少年~
千寿恋しさに、水汲みにゆく彼の後をつけてゆき、樹陰からその肢体を眺めたのも一度や二度ではない。
運命とは皮肉なものだ。
千寿の妹万寿姫が祝言を間近に控えて自害し、嘉瑛は千寿を手に入れる良策を思いついた。
確かに千寿に語ったように、将軍家の血を汲む名門長戸家の姫との婚姻は必要不可欠であった。それゆえ、あんな大人しいだけが取り柄のようなつまらない女でも、大切に扱ってやったのだ。長戸氏の姫でなければ、万寿姫なぞ何度か慰みものにして、さっさと棄てていただろう。
だが、嘉瑛にとって、それは所詮、表向きの理屈、建て前にすぎなかった。心底には、千寿への烈しい恋情が燃え盛っていたからこそ、千寿を妹の替え玉とするなどという茶番を考えたのだ。
人間とは不思議なものだ。千寿は、これまでどんな残酷な拷問を受けても、いささかも揺らぐことのなかった。そんな少年であっても、嘉瑛が抱こうとすると、泣いて厭がり逃げ回った。
どんなときでも毅然としていた少年が抱かれるのだけは厭だと訴えて泣く。千寿の泣き顔は嘉瑛にとって新鮮だった。
千寿の泣き顔や涙が余計に彼を煽り、凶暴にかきたてる。婚礼の夜以来、嘉瑛は千寿を幾度も抱いた。初めは千寿は厭がったが、次第に抵抗もしなくなり、嘉瑛を受け容れるようになった。だが、烈しい情交を重ねた後、千寿が一人で声を殺して泣いているのは知っていた。恐らく、千寿は嘉瑛が寝入っていると思っているのだろうが―。
あれだけ強い瞳を持ち、拷問にも灼き印にも弱音を吐かなかった千寿が、嘉瑛と褥を共にするときはひどく哀しそうな表情をする。
閨を共にする間中、すべてを諦めたかのように瞳を潤ませ、歯を食いしばって耐えている。そんな千寿を見ている中に、嘉瑛の中で次第に焦りが生じていった。
これほどまでに愛しているのに、どうして振り向かない?
何度膚を合わせても、千寿は一向に靡こうとはしなかった。
言葉で、金銀や財宝で千寿の歓心を得られるのであれば、嘉瑛は何をも惜しみはしないだろう。千寿の心を繋ぎ止めることができれば、水面に映る月でさえ、取ろうとするかもしれない。
運命とは皮肉なものだ。
千寿の妹万寿姫が祝言を間近に控えて自害し、嘉瑛は千寿を手に入れる良策を思いついた。
確かに千寿に語ったように、将軍家の血を汲む名門長戸家の姫との婚姻は必要不可欠であった。それゆえ、あんな大人しいだけが取り柄のようなつまらない女でも、大切に扱ってやったのだ。長戸氏の姫でなければ、万寿姫なぞ何度か慰みものにして、さっさと棄てていただろう。
だが、嘉瑛にとって、それは所詮、表向きの理屈、建て前にすぎなかった。心底には、千寿への烈しい恋情が燃え盛っていたからこそ、千寿を妹の替え玉とするなどという茶番を考えたのだ。
人間とは不思議なものだ。千寿は、これまでどんな残酷な拷問を受けても、いささかも揺らぐことのなかった。そんな少年であっても、嘉瑛が抱こうとすると、泣いて厭がり逃げ回った。
どんなときでも毅然としていた少年が抱かれるのだけは厭だと訴えて泣く。千寿の泣き顔は嘉瑛にとって新鮮だった。
千寿の泣き顔や涙が余計に彼を煽り、凶暴にかきたてる。婚礼の夜以来、嘉瑛は千寿を幾度も抱いた。初めは千寿は厭がったが、次第に抵抗もしなくなり、嘉瑛を受け容れるようになった。だが、烈しい情交を重ねた後、千寿が一人で声を殺して泣いているのは知っていた。恐らく、千寿は嘉瑛が寝入っていると思っているのだろうが―。
あれだけ強い瞳を持ち、拷問にも灼き印にも弱音を吐かなかった千寿が、嘉瑛と褥を共にするときはひどく哀しそうな表情をする。
閨を共にする間中、すべてを諦めたかのように瞳を潤ませ、歯を食いしばって耐えている。そんな千寿を見ている中に、嘉瑛の中で次第に焦りが生じていった。
これほどまでに愛しているのに、どうして振り向かない?
何度膚を合わせても、千寿は一向に靡こうとはしなかった。
言葉で、金銀や財宝で千寿の歓心を得られるのであれば、嘉瑛は何をも惜しみはしないだろう。千寿の心を繋ぎ止めることができれば、水面に映る月でさえ、取ろうとするかもしれない。