龍虹記(りゅうこうき)~禁じられた恋~
第4章 天の虹~龍となった少年~
愚かだ、馬鹿げていると自分でも知りながらも、嘉瑛はなおいっそう千寿に溺れずにはいられないのだ。
千寿を腕に抱いているときは、確かに千寿の瞳は揺れるが、かといって、その瞳が嘉瑛を見つめているわけではない。千寿は常に、嘉瑛ではなく、その向こう―はるか先を見つめているように見えた。
その先にあるものが何なのか、嘉瑛には判らない。千寿が何を望み、何をしたいと願っているのか、嘉瑛には想像もつかなかった。
千寿が見つめているものは、人と人が殺し合うことのない、すべての者が明日を夢見るて生きることができるような世であった。しかし、嘉瑛がそれを知ることは永遠になかった―。
嘉瑛は長い物想いから自分を解き放った。
改めて恋しい少年を見つめると、嘉瑛はゆっくりと千寿に近付いた。
陽の光が板塀の隙間から、光の梯子のように幾筋も差し込んでいる。
透明な陽差しが少年の頬をやわらかく照らし出していた。ややふっくらとした輪郭を描く頬、みずみずしい桜色の唇を見つめている中に、嘉瑛の中で熱いものが滾ってゆく。
久々に烈しい欲望が渦巻いていた。このあどけない顔をして眠っている少年の身体に触れたい。熱く滾る己れ自身をこの華奢な肢体の奥深くに沈め、少年が許しを乞うまで思う存分に責め立ててみたい。
嘉瑛の視線が少年の全身を辿った。顔も手も脚も随分と汚れている。泣きながら眠ったのか、頬には涙の筋が幾つもあった。小さな可愛らしい脚には、無数の擦り傷や切り傷があり、乾いた血がこびりついている。
酷い有り様にしては、安心しきったような表情で眠っている。嘉瑛の側で眠るときには、このような安らいだ顔を一度として見せたことはなかった。
ふいに、嘉瑛の中で憤りが生まれた。
何故、千寿は自分からこんなにまでして逃げようとするのだろう。自分の妻として―妹の身代わりではあるが―生きてゆけば、何不自由のない暮らしを約束されるというのに。 白海芋のようにすべらかな白い膚を傷つけ、血を流してまで、何故、千寿は嘉瑛から逃げようとするのだろう。
自分はこれほどまでに、千寿に焦がれているというのに!
いまだかつて、千寿を求めるほど、欲しい、抱きたいと思った女はいなかった。
千寿を腕に抱いているときは、確かに千寿の瞳は揺れるが、かといって、その瞳が嘉瑛を見つめているわけではない。千寿は常に、嘉瑛ではなく、その向こう―はるか先を見つめているように見えた。
その先にあるものが何なのか、嘉瑛には判らない。千寿が何を望み、何をしたいと願っているのか、嘉瑛には想像もつかなかった。
千寿が見つめているものは、人と人が殺し合うことのない、すべての者が明日を夢見るて生きることができるような世であった。しかし、嘉瑛がそれを知ることは永遠になかった―。
嘉瑛は長い物想いから自分を解き放った。
改めて恋しい少年を見つめると、嘉瑛はゆっくりと千寿に近付いた。
陽の光が板塀の隙間から、光の梯子のように幾筋も差し込んでいる。
透明な陽差しが少年の頬をやわらかく照らし出していた。ややふっくらとした輪郭を描く頬、みずみずしい桜色の唇を見つめている中に、嘉瑛の中で熱いものが滾ってゆく。
久々に烈しい欲望が渦巻いていた。このあどけない顔をして眠っている少年の身体に触れたい。熱く滾る己れ自身をこの華奢な肢体の奥深くに沈め、少年が許しを乞うまで思う存分に責め立ててみたい。
嘉瑛の視線が少年の全身を辿った。顔も手も脚も随分と汚れている。泣きながら眠ったのか、頬には涙の筋が幾つもあった。小さな可愛らしい脚には、無数の擦り傷や切り傷があり、乾いた血がこびりついている。
酷い有り様にしては、安心しきったような表情で眠っている。嘉瑛の側で眠るときには、このような安らいだ顔を一度として見せたことはなかった。
ふいに、嘉瑛の中で憤りが生まれた。
何故、千寿は自分からこんなにまでして逃げようとするのだろう。自分の妻として―妹の身代わりではあるが―生きてゆけば、何不自由のない暮らしを約束されるというのに。 白海芋のようにすべらかな白い膚を傷つけ、血を流してまで、何故、千寿は嘉瑛から逃げようとするのだろう。
自分はこれほどまでに、千寿に焦がれているというのに!
いまだかつて、千寿を求めるほど、欲しい、抱きたいと思った女はいなかった。