龍虹記(りゅうこうき)~禁じられた恋~
第4章 天の虹~龍となった少年~
たとえ、千寿が少年であったとしても、そんなことは構いはしない。千寿さえ側にいてくれれば、心からの笑顔を見せ、その身をゆだねてくれれば、他に望むものなどありはしない。
そこで、嘉瑛は愕然とした。
そう、応えは簡単、とうに判り切っていたことではないか。千寿は自分を嫌っている。
だからこそ、どこまででも逃げてゆこうとするのだ。
―許さぬ、お前は俺のものだ。
たとえ、どこまで逃れようと、地の果てまでも俺はお前を追いかけてゆく。
嘉瑛の双眸で蒼白い焔が燃える。
そっと顔を寄せ、少年のやわらかな唇に自分のそれを押し当てる。
「う―ん」
千寿が愛らしい声を上げて、寝返りを打とうとする。だが、嘉瑛の逞しい身体が上から覆い被さっているため、思うようにならない。その声さえ、今は嘉瑛の燃え上がろうとする情欲をよりいっそうかきたてる。
そっと口の中に舌を差し入れると、呼吸ができないのか、千寿は苦しげに眉を寄せた。
「う―ん?」
千寿の長い睫が細かく震えた。ゆっくりと見開いたその瞳に、烈しい怯えが浮かんだ。
千寿は夢を見ていた。
紅海芋の花が咲き乱れる泉水で、千寿は水浴びをしていた。例の、水汲みに来ていた泉水である。
冷たい水が心地良く、心まで洗われるようだ。千寿が両手を伸ばして深呼吸したその時、唐突に右脚が引っ張られた。
―誰ッ。
千寿は烈しい恐慌状態に陥る。
だが、もがけばもがくほど、千寿の小柄な身体は泉水の奥底へと沈んでゆく。何ものかが物凄い力で千寿の脚を引っ張り、水底へ引き込もうとしている。
とうとう頭まで水にすっぽりと浸かり、呼吸もできなくなった。
―く、苦しい。
千寿はあまりの息苦しさに喘いだ。
「う―ん?」
思うように息ができぬ苦悶に呻き、意識が急速に覚醒する。
眼を開いた千寿は、眼前に最も逢いたくない男の貌を認めて言葉を失った。
「い、いやっ」
千寿は悲鳴を上げ、後ずさった。
そこで、嘉瑛は愕然とした。
そう、応えは簡単、とうに判り切っていたことではないか。千寿は自分を嫌っている。
だからこそ、どこまででも逃げてゆこうとするのだ。
―許さぬ、お前は俺のものだ。
たとえ、どこまで逃れようと、地の果てまでも俺はお前を追いかけてゆく。
嘉瑛の双眸で蒼白い焔が燃える。
そっと顔を寄せ、少年のやわらかな唇に自分のそれを押し当てる。
「う―ん」
千寿が愛らしい声を上げて、寝返りを打とうとする。だが、嘉瑛の逞しい身体が上から覆い被さっているため、思うようにならない。その声さえ、今は嘉瑛の燃え上がろうとする情欲をよりいっそうかきたてる。
そっと口の中に舌を差し入れると、呼吸ができないのか、千寿は苦しげに眉を寄せた。
「う―ん?」
千寿の長い睫が細かく震えた。ゆっくりと見開いたその瞳に、烈しい怯えが浮かんだ。
千寿は夢を見ていた。
紅海芋の花が咲き乱れる泉水で、千寿は水浴びをしていた。例の、水汲みに来ていた泉水である。
冷たい水が心地良く、心まで洗われるようだ。千寿が両手を伸ばして深呼吸したその時、唐突に右脚が引っ張られた。
―誰ッ。
千寿は烈しい恐慌状態に陥る。
だが、もがけばもがくほど、千寿の小柄な身体は泉水の奥底へと沈んでゆく。何ものかが物凄い力で千寿の脚を引っ張り、水底へ引き込もうとしている。
とうとう頭まで水にすっぽりと浸かり、呼吸もできなくなった。
―く、苦しい。
千寿はあまりの息苦しさに喘いだ。
「う―ん?」
思うように息ができぬ苦悶に呻き、意識が急速に覚醒する。
眼を開いた千寿は、眼前に最も逢いたくない男の貌を認めて言葉を失った。
「い、いやっ」
千寿は悲鳴を上げ、後ずさった。