龍虹記(りゅうこうき)~禁じられた恋~
第4章 天の虹~龍となった少年~
「俺を本気で怒らせるとは、愚かな奴だ」
嘉瑛が聞いているだけで凍えそうな冷たい声を千寿に向けた。
「随分と余計な手間をかけさせるものだな、姫?」
「あ―」
千寿は烈しい怯えを黒い瞳に滲ませ、絶望の声を洩らした。
どうして、この男がこんなところにいるのだろう?
「い、いやだ。来ないで、来るなっ」
千寿は形の良い唇を戦慄かせた。
嘉瑛が手をのばそうとすると、千寿は厭々をするように首を振った。
「いやだーっ」
夢中で起き上がり、逃げようとする腕を摑まれ、千寿は呆気なく転んだ。嘉瑛はそんな千寿を抱きかかえ、藁の褥に乱暴に放る。
「い、痛いッ」
その拍子に腰だけでなく、挫いた脚までをもしたたか打ちつけてしまう。千寿は涙眼で脚をさすった。
「どうした、痛むのか」
嘉瑛の手が千寿の腰から尻を撫で回す。
「触るなッ」
千寿が泣きながら、嘉瑛の手を振り払った。
嘉瑛は呆れたように鼻を鳴らす。
と、千寿が再び、顔を歪めた。
右脚をしきりにさすっているのを見、嘉瑛が覗き込む。
「そんなに痛むのか、どれ、見てやろう」
嫌らしげな眼で見つめ、着物の裾を捲ろうとする。
「私に触るな!」
千寿は悲鳴のような声で叫んだ。毅然として頼んだつもりだが、現実には哀願しているような響きになってしまう。
「鬼ごっこは、もうそろそろおしまいだ。俺も子どもの遊びに付き合うのは飽きたんでな」
嘉瑛が淡々と言う。
「千寿、俺はお前に言ったはずだ。俺の側から黙っていなくなるなと。お前は俺の妻でありながら、俺を裏切った。その罰がどのようなものか、覚悟はできておろうな」
一転した冷たい声音は、まるで魔界から響いてくる死者のもののよう。
「―!」
千寿は恐怖に顔を引きつらせ、身を退く。
そんな少年を、嘉瑛は捕らえた獲物をどう料理するかを思案するような眼で実に愉しげに眺めている。
嘉瑛が聞いているだけで凍えそうな冷たい声を千寿に向けた。
「随分と余計な手間をかけさせるものだな、姫?」
「あ―」
千寿は烈しい怯えを黒い瞳に滲ませ、絶望の声を洩らした。
どうして、この男がこんなところにいるのだろう?
「い、いやだ。来ないで、来るなっ」
千寿は形の良い唇を戦慄かせた。
嘉瑛が手をのばそうとすると、千寿は厭々をするように首を振った。
「いやだーっ」
夢中で起き上がり、逃げようとする腕を摑まれ、千寿は呆気なく転んだ。嘉瑛はそんな千寿を抱きかかえ、藁の褥に乱暴に放る。
「い、痛いッ」
その拍子に腰だけでなく、挫いた脚までをもしたたか打ちつけてしまう。千寿は涙眼で脚をさすった。
「どうした、痛むのか」
嘉瑛の手が千寿の腰から尻を撫で回す。
「触るなッ」
千寿が泣きながら、嘉瑛の手を振り払った。
嘉瑛は呆れたように鼻を鳴らす。
と、千寿が再び、顔を歪めた。
右脚をしきりにさすっているのを見、嘉瑛が覗き込む。
「そんなに痛むのか、どれ、見てやろう」
嫌らしげな眼で見つめ、着物の裾を捲ろうとする。
「私に触るな!」
千寿は悲鳴のような声で叫んだ。毅然として頼んだつもりだが、現実には哀願しているような響きになってしまう。
「鬼ごっこは、もうそろそろおしまいだ。俺も子どもの遊びに付き合うのは飽きたんでな」
嘉瑛が淡々と言う。
「千寿、俺はお前に言ったはずだ。俺の側から黙っていなくなるなと。お前は俺の妻でありながら、俺を裏切った。その罰がどのようなものか、覚悟はできておろうな」
一転した冷たい声音は、まるで魔界から響いてくる死者のもののよう。
「―!」
千寿は恐怖に顔を引きつらせ、身を退く。
そんな少年を、嘉瑛は捕らえた獲物をどう料理するかを思案するような眼で実に愉しげに眺めている。