龍虹記(りゅうこうき)~禁じられた恋~
第4章 天の虹~龍となった少年~
また、捕まってしまった―。
千寿は奈落の底に突如として突き落とされたように、眼の前が暗くなった。
これからどのような目に遭わされるのかと想像しただけで、この場で舌を噛み切りたいとすら本気で思った。
それから一刻余り後のことである。
小屋の外では、なかなか出てこない主君を待ちくたびれた二名の従者がいた。
「それにしても、殿は遅いな」
一人が呟くと、もう一人が不安そうに小屋の方を見やった。
「何かあったのだろうか」
「我らが殿はああ見えて、なかなかの手練れでおわされる。たかだか、女のような子ども一人に殺(や)られるなんてことは、まずないだろう」
確信に満ちた口調で言う同輩に、丸顔の背のやや低い男がそれでもまだ気遣わしげに言う。
「さりながら、いかに何でも、これは遅すぎる。何なら、俺が様子を見にいって参る」
その時、小屋からかすかに人の声らしきものが洩れ聞こえてきた。
二人の若い従者は耳を澄ませた。
それは―、泣き声に混じった、悲鳴とも喘ぎ声ともつかぬ声だった。小屋の中で何が起こっているか、二人はすぐに理解した。
「なっ、折角、三日ぶりに恋しい奥方の顔をご覧になったんだ。殿が城にお帰りになるまで、お待ちになれぬお気持ちも判るというもだろう?」
背の高い相棒は、苦み走ったなかなかの男前だ。そちらが我が意を得たりとばかりに言い、
「それもそうだな」
と、今ひとりも心得顔で頷く。
二人の若者たちは意味ありげな笑みを交わし合った。
「さあて、もう少し刻がかかりそうだな。俺はもうひと眠りするよ」
それまでうつらうつらと太平楽に船をこいでいた長身の男は、再びゴロリと横になった。
大あくびを一つしたかと思うと、すぐに寝息を立て始める。
そんな男を呆れたように眺め、片割れは大仰な吐息をついた。
「殿はそれで良いがなぁ。俺のところだって、これでも一応、新婚なんだぜ? 早く帰って、かみさんの顔を見たいんだがな」
千寿は奈落の底に突如として突き落とされたように、眼の前が暗くなった。
これからどのような目に遭わされるのかと想像しただけで、この場で舌を噛み切りたいとすら本気で思った。
それから一刻余り後のことである。
小屋の外では、なかなか出てこない主君を待ちくたびれた二名の従者がいた。
「それにしても、殿は遅いな」
一人が呟くと、もう一人が不安そうに小屋の方を見やった。
「何かあったのだろうか」
「我らが殿はああ見えて、なかなかの手練れでおわされる。たかだか、女のような子ども一人に殺(や)られるなんてことは、まずないだろう」
確信に満ちた口調で言う同輩に、丸顔の背のやや低い男がそれでもまだ気遣わしげに言う。
「さりながら、いかに何でも、これは遅すぎる。何なら、俺が様子を見にいって参る」
その時、小屋からかすかに人の声らしきものが洩れ聞こえてきた。
二人の若い従者は耳を澄ませた。
それは―、泣き声に混じった、悲鳴とも喘ぎ声ともつかぬ声だった。小屋の中で何が起こっているか、二人はすぐに理解した。
「なっ、折角、三日ぶりに恋しい奥方の顔をご覧になったんだ。殿が城にお帰りになるまで、お待ちになれぬお気持ちも判るというもだろう?」
背の高い相棒は、苦み走ったなかなかの男前だ。そちらが我が意を得たりとばかりに言い、
「それもそうだな」
と、今ひとりも心得顔で頷く。
二人の若者たちは意味ありげな笑みを交わし合った。
「さあて、もう少し刻がかかりそうだな。俺はもうひと眠りするよ」
それまでうつらうつらと太平楽に船をこいでいた長身の男は、再びゴロリと横になった。
大あくびを一つしたかと思うと、すぐに寝息を立て始める。
そんな男を呆れたように眺め、片割れは大仰な吐息をついた。
「殿はそれで良いがなぁ。俺のところだって、これでも一応、新婚なんだぜ? 早く帰って、かみさんの顔を見たいんだがな」