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龍虹記(りゅうこうき)~禁じられた恋~

第4章 天の虹~龍となった少年~

 ―だが、幼時から共に育ってきた彼は、主君の性癖を誰よりもよく知っている。
「これは、当分、帰れそうにないな」
 呟くと、居直ったように彼もまた横になった。
 そろそろ茜色の夕陽が地面に影を落とす頃合いになっている。
 何の鳥かは知らぬが、群れをなして夕焼けに染まった空を塒(ねぐら)へと帰ってゆくのを眺めながら、仰向けになった男はまた、大きな溜息をついた。
 
 千寿は筆を文机に置くと、小さな吐息を零した。眼前には一枚の紙切れが置かれており、その小さな限られた空間には、ふた色の花が描かれていた。繊細な筆致でありながらも、大胆に描き切った花は紅海芋、白海芋であった。予(あらかじ)め墨で下書きしたものに、顔料(絵の具)で色づけしてゆく。一度に色をつけるのではなく、淡い色を重ねづけしてゆくため、なかなか根気の要る作業になる。
 が、今の千寿にとっては、そんな作業もかえって気を紛らわせるすべになっていた。
「何をしている」
 ふいに背後で嘉瑛の声がして、千寿は思わずピクリと身を震わせた。
 半月前、嘉瑛に木檜城に連れ帰られてからというもの、千寿は再び、以前と同じ日々を過ごすようになった。嘉瑛は夜毎、千寿の許に通い、二人は褥を共にする。
 千寿が逃げ出したことについて、嘉瑛は特に何も追及はしなかった。どのような咎めを受けるかと内心怯えていた千寿は、正直、呆気に取られた。
 だが、それは大きな間違いであることに、すぐに気付く。
 あの森の中の廃屋で、千寿は嘉瑛に陵辱の限りを尽くされた。嘉瑛は泣いて許しを乞う千寿を執拗に追いかけ回し、幾度も烈しく貫いた。幾ら厭だと訴えて逃げようとしても、腕を摑んで引き戻され、藁の褥に押し倒された。あのときの嘉瑛はとりわけ容赦がなかった。
 城に帰ってからの嘉瑛の愛撫は、日毎に常軌を逸してゆく。共に夜を過ごした翌朝、これまでは明け方には表に帰っていったのに、今は陽が高くなるまで千寿の許にいるようになった。明るくなっても、果てのない情交は延々と続く。

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