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龍虹記(りゅうこうき)~禁じられた恋~

第4章 天の虹~龍となった少年~

嘉瑛はしばらく何も言わずに佇んでいた。
 懐手をして、空を眺めている。
 嘉瑛の眼にも、あの二羽の鳥は映じているのだろうか。
 ふと、問うてみたい気になった。
 と、唐突に声が降ってくる。
「そんなに帰りたいか」
 視線はあくまでも空に向けたままで、嘉瑛は明日の天気の話をするような口調で言った。
 帰りたいとも言えず、千寿はうつむく。
「この国の海芋の花も美しいが、そなたの生まれ故郷に咲く海芋もまたさぞかし美しかろうな」
 その言葉は、何故か千寿の心に何かを落とした。
 嘉瑛はそれ以上、口を開くこともなく、二人は並んだまま空を眺め続けた。
 空は既にすっかり宵の色にうつろっている。二羽の鳥はどこに消えたものか、その姿はどこを探しても見当たらなかった。
  
 その夜、嘉瑛は再び千寿の許を訪れた。
 夜半から生温かい風が吹き始め、暗雲が空に重く垂れ込め、雨まで降り始めた。
 どうやら、季節外れの嵐になったらしく、外は荒れ狂う風雨で騒がしいほどになった。
 だが、深い水底(みなそこ)を思わせる閨の中は森閑として、外の嵐が嘘のようである。
 嘉瑛の唇が、千寿の白い身体の感じやすい場所を丹念に辿ってゆく。
 数え切れぬほど触れられ、千寿の身体を知り尽くした男の指だ。
 白い華奢な身体が、ほのかな桜色に染まる。
 嘉瑛は、なめらかな胸の先端から臍の窪み、下腹部へと指を這わせ、丁寧な愛撫を与える。
 そのようなささやかな刺激によっても、千寿の研ぎ澄まされた五感は敏感に反応する。
 あえかな吐息を洩らし、身を捩らせる千寿を嘉瑛はわずかに眼を眇めて見つめた。
「こんなに乱れて。そなたは感じやすい身体をしておるのか、それとも、初めから思うておったが、そなたと俺は身体のの相性が良いのかな?」
 淫らな言葉を耳許で囁かれ、千寿の頬が羞恥で更に紅く染まる。
 身も世もない風情の千寿を言葉によっても嬲り、犯すのが愉しくてならないようだ。
 嘉瑛は、十分にその反応を堪能した後、今度は千寿の身体を引っ繰り返した。
 うつ伏せた千寿の背中には、今なお消えぬ烙印が捺されている。それは、他ならぬこの男―嘉瑛自身の名前であった。

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