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龍虹記(りゅうこうき)~禁じられた恋~

第4章 天の虹~龍となった少年~

酷(ひど)い火傷の跡のように、傷痕はくっきりと紅く残っている。白海芋の花のような透明な膚にその箇所だけ、紅く浮かび上がっているのは憎い男の名であった。
 嘉瑛の手がその傷痕に優しく触れた。
 疵を癒やすように、千寿の心を宥めるように、男の手は白い背中に浮き出た紅い文字をなぞる。
 いつもとは異なる嘉瑛の思いがけぬ優しさに、千寿は戸惑う。当惑しながらも、背中を撫でる手のやわらかさにこのまま何も考えずに身を委ねていたいと思った。
 指先だけでなく、唇を使って嘉瑛はその傷痕を丁寧に辿った。嘉瑛の唇が紅い傷痕を這う。背中だけにとどまらず、腰、更に形の良い双丘、両脚の太股と、唇は次第に下へと向かう。
 嘉瑛は千寿に触れることに刻を惜しまない。丹念に時間をかけて、一つ一つ、触れながら、やわらかくほぐしてゆく。
 その度に、男の唇が触れた場所に火が点ってゆく。その火はやがて大きな焔となって烈しく燃え上がり、千寿の身体を灼き尽くしてゆくのだ。
 太股を舐め上げられ、千寿は思わず悲鳴を上げた。その声は自分でも厭になるほど、艶めいており、到底、自分の声だとは思えない。
 嘉瑛は千寿の反応に満足げな笑みを刻み、唇を太股に這わせながら、腕を伸ばした。
「あ、ぁああっ」
 突如として、双丘の奥へと指を突き入れられ、千寿の身体が魚のように撥ねた。あまりの衝撃に、眼の前が真っ白になり、景色がぼやけた。
 悪戯な指は飽くこともなく、千寿の最も感じやすい部分を執拗に行ったり来たりしている。太股を舌で愛撫されながら、更に秘められた狭間をも指でかき回されては、ひとたまりもない。
「うっ、ああっ」
 千寿は、自分の身体中を駆けめぐる震えが何なのか判らぬまま、声を上げ、褥の上でもんどり打った。
「そんなに気持ちが良いのか? 俺の指を食いちぎらないでくれよ」
 下半身を妖しい感覚が突き抜ける度、千寿の奥は男の指をきつく締め上げる。情事の熱で潤んだ瞳を動かし、千寿は懸命に嘉瑛を見上げた。

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