龍虹記(りゅうこうき)~禁じられた恋~
第4章 天の虹~龍となった少年~
「虹―」
森の彼方に、虹がかかっている。
七色の光彩がまるで空の海をまたぐ橋のように、くっきり鮮やかに浮かび上がっていた。
「行け、千寿。お前の目指す白鳥の国は、あの虹の向こうにある」
嘉瑛の言葉に背中を押されるように、千寿は白馬の脇腹を軽く蹴った。
「達者で暮らせ。縁あらば、また、いずこかであいまみえようぞ」
「あなたもお元気で」
千寿は一度頭を下げると、そのまま馬を走らせる。
この森を抜け、西へ進めば、やがて玄武の国に至る。嘉瑛の勧めもあって、千寿は玄武の国を迂回して白鳥へ向かう道を選んだ。
長戸家の残党狩りは厳しく、千寿の生命を狙っているのは何も嘉瑛だけではなく、他国の武将も同様なのだ。木檜を出たからといって、油断はできない。
絵の具を落としたような深い蒼空に、七色の光の橋が煌めいている。それは、まるで千寿のゆく末を象徴しているかのようでもあった。
虹の、あの虹の向こうに、片時たりとも忘れることのなかった生まれ故郷が待っている。それでも、森を出ると、千寿の心は逸った。
もしかしたら、自分はあの(嘉)男(瑛)のことを好きになり始めていたのかもしれない。
馬を駆りながら、千寿はふと嘉瑛のことを考えた。
だが、これで良かったのだ。
嘉瑛も男、千寿も男、男同士で夫婦として終生、添い遂げることなぞ、できようはずもない。しかも、幾度も己れに言い聞かせたように、あの男は両親や妹を殺した敵であった。
いかなることがあったとしても、嘉瑛を愛することは禁忌なのだ。
千寿は、想いを振り切るかのように、馬を走らせる速度を上げる。
やがて、千寿を乗せた白い馬は、彼方に虹を頂いた緑の樹々の中へと吸い込まれ、見えなくなった。
千寿が立ち去った後、嘉瑛はしばらく、その場から動かなかった。
ふと思い出したように馬に乗ったまま、懐から一枚の紙片を取り出す。小さく折り畳んだ紙を丁寧にひろげ、嘉瑛は見入った。
森の彼方に、虹がかかっている。
七色の光彩がまるで空の海をまたぐ橋のように、くっきり鮮やかに浮かび上がっていた。
「行け、千寿。お前の目指す白鳥の国は、あの虹の向こうにある」
嘉瑛の言葉に背中を押されるように、千寿は白馬の脇腹を軽く蹴った。
「達者で暮らせ。縁あらば、また、いずこかであいまみえようぞ」
「あなたもお元気で」
千寿は一度頭を下げると、そのまま馬を走らせる。
この森を抜け、西へ進めば、やがて玄武の国に至る。嘉瑛の勧めもあって、千寿は玄武の国を迂回して白鳥へ向かう道を選んだ。
長戸家の残党狩りは厳しく、千寿の生命を狙っているのは何も嘉瑛だけではなく、他国の武将も同様なのだ。木檜を出たからといって、油断はできない。
絵の具を落としたような深い蒼空に、七色の光の橋が煌めいている。それは、まるで千寿のゆく末を象徴しているかのようでもあった。
虹の、あの虹の向こうに、片時たりとも忘れることのなかった生まれ故郷が待っている。それでも、森を出ると、千寿の心は逸った。
もしかしたら、自分はあの(嘉)男(瑛)のことを好きになり始めていたのかもしれない。
馬を駆りながら、千寿はふと嘉瑛のことを考えた。
だが、これで良かったのだ。
嘉瑛も男、千寿も男、男同士で夫婦として終生、添い遂げることなぞ、できようはずもない。しかも、幾度も己れに言い聞かせたように、あの男は両親や妹を殺した敵であった。
いかなることがあったとしても、嘉瑛を愛することは禁忌なのだ。
千寿は、想いを振り切るかのように、馬を走らせる速度を上げる。
やがて、千寿を乗せた白い馬は、彼方に虹を頂いた緑の樹々の中へと吸い込まれ、見えなくなった。
千寿が立ち去った後、嘉瑛はしばらく、その場から動かなかった。
ふと思い出したように馬に乗ったまま、懐から一枚の紙片を取り出す。小さく折り畳んだ紙を丁寧にひろげ、嘉瑛は見入った。