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君が教えてくれたこと。

第2章 初めての感情。

美夜が待っていた。
普通待たないだろ。
バカかこいつ……。
「なんだ。本当に待っていたのか。」
俺は馬鹿にしたように言う。
美夜は文句も言わず、
「当たり前でしょ。私は世話係だもん!」
とニコリ。と笑う。
「そっか……。」
俺は素っ気なく言い放つ。
それでも美夜は笑顔で
「じゃー行こっか。」
と、俺を連れ出す。
クソ、調子狂うな……。
「ここが保健室。怪我したり体調悪かったりしたら無理しないでここに来てね。」
「ここが図書室。うるさくすると凄い怒られるから静かにしてね。」
「最後にここが職員室。先生達に用がある時はノックして入ってね。」
俺は一切返事をしないのに、嫌な顔を一つしないで、美夜は丁寧に校内を案内してくれた。
案内が終わると美夜は
「じゃークラス戻ろっか。」
と言う。
戻ると美夜は暖かい笑顔で
「私は先帰るね。もうすぐ最終下校時間だから早く帰りなよ。」
それだけを言い、教室を出ようとする。
なんでいつも笑ってられるんだ。
嫌な顔一つせず…。
その優しさが苦しい。
裏表のないその優しさが鋭い刃に感じる_____。
なぜそんなに俺に良くする。
昨日の夜、獣のような俺を見たって言うのになぜ怖がらない。
苦しくて、悲しくて、誰かに助けて欲しくて、俺は美夜を呼び止めてしまっていた。
「ん?何?」
美夜はきょとんとした顔で俺を見た。
「お前は他の奴とは違うのか?」
俺は美夜に投げかけた。
「どういうこと?」
「お前は誰かに好かれようといい顔ばかりしない。なんでだ?嫌われるのが怖くないのか?俺のことが怖くないのか?」
変なこと聞いてるってことは頭の中で分かってる。
……くそ。何言ってんだ。俺。
俺の質問を聞き、少し驚いた美夜は、俺の方に向き直りふわり。と笑い、暖かい表情で言う。
「大勢の人に自分を作ってまで好かれようとは思わない。素の私を大切にしてくれる人が1人、2人いるだけで私は幸せだもん。それに夕緋君は夕緋君だよ。怖がることなんて何も無い。夕緋君もきっといつか、本当に貴方を大切と思ってくれる人と巡り会える時がくるよ!」
その言葉で俺の中の苦しみや悲しみが一気に溶けていく____。
俺は
「そっか……。」
とだけ言い窓の外の夕陽を眺めた。
その時、俺が人を信じないと決め、封印した箱の鍵の一つが
カチャ____。
と言う音を響かせて外れたのを感じた_____。

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