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ネットに落ちてた怖い話

第57章 逆さの樵面

父は耐え難い悪寒に襲われていました。

姑曰く、あの天地を逆さにして釘を目に打たれた面は、強力な呪いを撒き散らしていると。
そしてこの座敷に上がった人間は、ことごとく失明するのだと言うのです。

「バカバカしい」と言って座敷に入ろうとする者はいませんでした。

古い神楽面には力があると、信じているというより、理解しているのです。

だからこそ、翁面を小さな行李に入れ、また「1年使わないと表情が変わる」といわれる般若面の手入れを欠かさないのです。

入らずには面を外せない。
入れば失明する。

だからこそ、土谷家ではこの奥座敷の樵面を放置していたわけです。

調度品の類もない畳敷きの座敷は埃と煤で覆われていました。
明治の前よりこのままだと、姑は言いました。

何か方法はないかと考えていた太夫の一人が、

「あんた、向かいの太郎坊に取りに入らせたらよかろう」

と手を打ちました。

「あれはめくらだから」と。

父はなるほど、と思いました。

確かに土谷家の隣家の息子は目が見えない。
彼に面を外させに行かせたらいいのだ。

ところが、姑は暗い顔で首を振ります。

そしてこの樵面の縁起を訥々と語り始めたのです。

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