秘密の兄妹 2
第3章 純哉と奏多
「じゃあ、悠人が別れろって言ったら?」
急に神保さんが私と由香の会話に入ってきた。
「悠人が、そんな男とは別れろって紫織ちゃんに言ったら、紫織ちゃんはそいつと別れる?」
…それ、は……
…お兄ちゃんがそう言って来たら、嫌でも…
「…それは、別れるしかありませんね。
兄の言うことは絶対ですから。」
私は自嘲ぎみにそう言うしかなかった。
「…自分でも、いま付き合ってる人とまともな恋愛関係ではないことは分かっているんです。
でも、自分からはどうしても切り捨てられない……。
相手の人に愛されていないと分かっていても、私から離れることは無理なんです。」
「相手の男が紫織ちゃんの身体だけが目当てだったとしても?」
神保さんがズバリと核心を突いてくる。
「…それでも、相手の人が私を必要としてくれていることが嬉しいんです。
自分でも馬鹿なことしてるって分かってるんですけど…。
本当、私って駄目ですよね。」
「相手の男が紫織ちゃんに飽きたら、紫織ちゃんはどうするの…?」
橘さんが、じっと私を顔を見て尋ねる。
「そのときは、私が捨てられるだけです。」
「「「…………」」」
「でも、私の付き合ってる人、優しいですよ?
皆が思っているような非道い人ではないので、安心してください。」
私がそう言うと、橘さんが少し棘のある口調で言う。
「女を自分の良いように利用する男は、大抵、女の子に対して優しく接するもんだよ。
相手の子が純粋で優しくて心が綺麗な子なら特にね…。
そういう子は、会っている時だけ優しくしてあげれば
ずっと騙され続けてくれるから…。
…男にとってはすごく都合がいい。」
「……気まぐれでも、優しくされると嬉しいんです。
偽りの優しさでも幸せに感じてしまう。
私は本当にどうしょうもないっ…」
目からじわりと涙が溢れ出てくる。
「…本当にどうしょうもない……」
「「「…………」」」
「……何で紫織ちゃんが泣いてんの…?」
急に私の背後から、地を這うような低く冷徹な声が響いた。