針の山
第1章 針の山
「それじゃあ、毒か何かを
盛られたの?」
「いいえ。駐在さんの話だと
ご遺体に不思議な所はなかった
そうです」
「じゃあ、何故? 何で一斉に
雇い主家族だけ亡くなったの?」
「さあ、何でしょうねぇ……」
彼女はそう言うと
ピンクッションに視線を落とした。
「ところで奥様は、この針山の
中身をご存知ですか?」
「綿じゃないの?」
「そうですね。最近では手作りの
針山の中身に、コーヒーの出がらしを
使うと良いらしいですよ。
何でも、コーヒー豆の持つ油が
針の錆を防いで滑りを良くするん
だとか……」
「へぇ? そうなのね。知らなかったわ」