お姫様は海に恋い焦がれる
第2章 海に浮かんだ月に焦がれる
「どうするの?」
果てないような沈黙だった。果てないような沈黙が、みちるの意識に掠れたアルトが染み透ってくるや、霧散した。
ともすれば媚薬を含んだ響き、妖しいまでに美しい声だ。
ただし、媚薬がきたしてくるのは憂慮と譴責、みちるははるかを瞥見した。故郷の星を聯想する、切れ長の目許を飾った清冽な双眸は、案の定、心なしか現状を慨嘆している色合いがあった。
「クリスタルトーキョーの繁栄は、クイーンとキングあってのものだ。シルバームーンクリスタルとゴールデンクリスタルがひとところにあってこそ、銀水晶は真の威力を蓄えて、あの子を守る。斃しても斃しても迫ってくる侵入者、それに、近い将来予測されている、天変地異にも似た現象。お団子の気持ちが他の人間に向いている所為だって、皆、認めはしなくても気付いてる」
「分かってるわ。いにしえに滅ぼされたシルバーミレニアムの再興……そのために私達は生まれ変わってきた。けれど、……」
みちるはカップのみなもを見つめる。
そこはかとなく官能的なシャンパーニュ、そして愛らしい、決して甘ったるいだけではない酸味が遠くでほのめく匂いは、プリンセスの心魂にどこか通じる。