お姫様は海に恋い焦がれる
第2章 海に浮かんだ月に焦がれる
プリンセス・セレニティ、愛してはならない存在だった。
月の王国の血を引く王族、銀河の安寧を統べる力を秘めた生きた天使そのものの彼女には、プリンセスとしての宿命がある。ゴールデンクリスタルの継承者のクイーンになって、銀河に無窮の泰平をもたらすこと。
だが、みちるはプリンセスに、否、うさぎに、胸奥の海にいつもしめやかな波紋を起こしていた愛念を隠しておくには、自負していたより不器用だった。
まばゆい笑顔、屈託ない精神、それでいて気高く聡明なプリンセスの目を持ち合わせた少女は、ついにパンドラの箱を開けた。
「私がうさぎを見限ったところで、戦いが終わるとは思わない」
「ああ、だが銀水晶はお団子に馴染む。今のあの子は、所詮クイーンとは呼べない身体だ。プリンセスという、継承者に過ぎない。強大な侵入者がやって来る度、幻の銀水晶の力を解放している。このままじゃ、あの子の身体は」
「私が守るわ」
「守る、か。……」
はるかの精悍な唇が、皮肉な音色を吐き出した。
今しがたの非難は、多分、誰よりも自由を肯定する彼女、ことさらに羈束を忌む彼女の本心ではない。もとよりうさぎはプリンセスである前に、脆弱な生身の少女だ。全てをありのままに愛して、ありのままに愛される、天衣無縫の少女に過ぎない。クリスタルの呪縛にかかってさえいなければ。
ウラヌスも、昔はプリンセスに跼蹐を超えた愛念を傾けていた。
月に嫉妬した反逆者が太陽の黒点に潜まなければ、否、或いはみちるの軟派な美少女の仮相を被った親友は、今でもただ一人の人を想っているのか。