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お姫様は海に恋い焦がれる

第1章 壊れてゆく運命を、リボンで


 不可侵の深奥に至るまで清澄な透明感をとりこめたクリスタルの宮殿、月の血を引くアリストクラシーの統御する神秘のパレスは、昼間の落碧さえ薄らがせる煌めきがあった。無限の星々の明滅を受けては外壁を滑ってゆく透徹な可視光、直視し難い強烈な光に相反して巨大なクリスタルの宮殿を満たしているのは無窮の恤愛、心魂の真髄にまで染み透るほどのぬくもりだ。

 やんごとなき情調、どれほど美しい色彩もたかが知れた不純物にしかなりえない透明感から構成された宮殿は、束の間の夢を賞翫する潜在意識の領域にさえ、フィリアの花びらを撒き散らす。



 ネプチューンは夢を見ていた。


 甘く不吉なナイトメアが、白い花びらを喰んでゆく。
 だが、消えた色相は、それでもまたどこからか舞い降りてきては、晦冥のしもべの片端を今また薄める。

 月の王国が壊れてゆく。

 まるでガラスに映ったポートレートがひび割れて、砕け落ちてゆく──…そうした呆気ない破滅が顕現しては、また、ぼけた光が微弱に揺らめく。



 とりとめない拍子に目が覚めた。しめやかな鬼胎をもたらす今しがたの美しい幻とは一変して、優美な真珠と可憐なパステルピンク、淡いゴールドの刷けた不思議なシルバーの織り成す眺めが広がっていた。


「…………。ん……」


 倦怠感に巻かれながら薄目を凝らす。

 半身を起こそうとするや、手首に何か絡みつくのに気が付いた。

 パステルピンクの、控えめな光沢を帯びたサテンのリボンだ。ネプチューンの片手に結ばれていた。蝶々結びか、否、ぎこちない結び目から伸びた輪っかも後翅も、大小まるでちぐはぐだ。

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