お姫様は海に恋い焦がれる
第3章 うさぎピンチ!二人きりの夜〜未来編〜
* * *
夜闇が街を覆っていた。
だが、みちるの頭上は柔和な真珠の光にぼやけ、無辺の星々が瞬く。
みずみずしい緑の匂いと花の気配がみちるをとりまく。
ネオ・クイーン・セレニティが即位してからはや百年、ひと昔前は深刻な社会問題に発展していた環境汚染は銀水晶の力が癒し、ニュースは毎日のように明るい話題で持ちきりだ。
政治に明るいうさぎではなかったにせよ、生来の身性が人々の支持を集め、少女だった頃に僅かに覗いた未来は現実となったのだ。
ピンポーン──…………
深閑たる住宅街の片隅に、チャイムの音はいやに優しく際立った。
「はいはーいっ。……っと、みちるさん!いらっしゃいませ」
扉が開くや、まばゆい笑顔がみちるを迎えた。
うさぎが一人で留守を守ることを知ったのは、クリスタルパレスでの休憩時間、はるかと庭園を散歩していた時だ。半徹夜を決め込むのだと宣言した彼女に事情を質したところ、衛の出張、ちびうさの外泊という情報を得たのである。
「ごめんなさい、来てもらっちゃって……」
「当然よ。はるかもレイも、スマートフォンを監視したって限界があるわ。実際にうさぎがピンチの時、瞬時に駆けつけられるかどうか」
「そんなピンチはまずないですし……」
「あら、そう?」
「ひゃうっ?!」
みちるの腕の中で、細い肢体が小さくたわんだ。
懐かしい錦糸の匂いがみちるの胸裏に染み通る。
遠くでストロベリーの香る、ブーケのフレグランスだ。
うさぎの愛用しているトリートメントは、昨今、国民達の間でささやかな流行りとなっている。
…………ちゅ。
しとりを帯びた首筋に、みちるの唇が吸い寄せられた。