お姫様は海に恋い焦がれる
第3章 うさぎピンチ!二人きりの夜〜未来編〜
「何するんですか?!」
「うさぎが油断しているから」
「はぁっ、…………」
「悪い人達がいなくなったからと言って、無条件に周りを信じるべきではないわ。貴女は甘い。……そこが良いところなのだけれど」
ごめんなさい、と、覇気をなくしたソプラノが、いじらしくみちるを追いかける。
素直だ。残酷なまでにうさぎは素直だ。
勝手知ったる廊下を進んで、リビングの扉を開けた。
少女の頃から変わらない、おそらく持ち主はどれもうさぎと思しき書籍に混じって、テーブル台の備え付けラックに二冊、見覚えのある画集が挟まっていた。
「ごめんなさい、片付けます。みちるさんは座っていて下さい」
「ううん、平気。私が片付けるから」
「いえ、あたしが」
「やめて」
ファッション誌をかき集めかけたうさぎの手首を持ち上げた。
「っ…………」
うさぎから息を飲んだ気配がした。
「…………」
「うさぎ、……」
「──……」
片手首を肩の手前に引き寄せて、腹に左腕を回した。
後方から抱いたうさぎの表情は、確かめられない。
ただ、腕を更に強めても、うさぎに抜け出したがる様子はなかった。
「…………。みちるさん……」
「画集、言ってくれれば贈ったのに」
「……あたしが勝手に欲しかったんです。みちるさんの音楽も、絵も……好きだから」
「貴女にならいくらでもプレゼントするわ」
「いただく資格はありません」
「──……」
件の写真集の出版が決まった年の暮れ、みちるはうさぎと五年間の交際に終止符を打った。うさぎが成人した年でもあった。
当時、国は治安の悪化や財政難で荒廃していた。単純な人間社会の堕落だ。
ただ、トーキョーにはクリスタルトーキョーとして生まれ変わる天命があった。
エンディミオンの力を借りたセレニティと銀水晶は、地上に活気を寄せ戻した。うさぎは文字通り救世主(メシア)となった。
そして、うさぎが衛を求めた目的は他にもあった。
ちびうさに、もう一度会いたい。