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お姫様は海に恋い焦がれる

第3章 うさぎピンチ!二人きりの夜〜未来編〜









「はい、うさぎちゃん。これが歴代首相の偉業をまとめたものよ。いくら幻の銀水晶が万能でも、うさぎちゃんはクイーンとして、もっと勉強しておくべきだわ」

「今日はうさぎちゃんのエプロンも持ってきたからね。衛さんに料理任せっぱなしなんだろう?私も一緒にやるからさ、頑張ろ」

「うさぎ。貴女はパレスでの謁見日、市民の皆さんを待たせすぎだと思うの。この火川神社の優秀巫女レイちゃんが、土日祝日のお客様の対応ノウハウを仕込んであげる」

「うっ……うゔぅ……お勉強やだぁぁぁっっ……」


 星野に続いて訪ったのは、亜美とまこと、レイ、せつなと大気、火球皇女だ。


 もの寂しかった一軒家は、先日のみちるのバースデーパーティー以来の賑わいようだ。


「うさぎさん。焦ることはありません。皆さんは貴女を思い遣っているのです。貴女は立派なクイーンです」

「っ……火球プリンセス……」


 火球皇女のしとやかな手が、うさぎの両手を包んでいた。


「わたくしも王位に就いて随分経ってから勉強しました。今からでも十分間に合います」

「ゔっ」


 幾重にも重なる笑い声が二人を囲った。



 何十年も前にも、こうした夜があった。みちる達がこの街に戻って間もなかった頃だ。

 途中で敵の来襲に遭い、消灯までの後片づけに八苦したものだが、みちるは人知れず交際していた恋人を腕に抱いて眠りに就いた。うさぎの左手の薬指から、ピンク色のハートが煌めくリングは外れていた。


 少女の時代は駆け抜けていった。あのみずみずしい日常の中でさえ、苦艱の欠片に怯えては、思い悩み、苦悶した。どれもとるに足りなかった。果てなく続くものだと信じて疑わなかった日常だ。


 当たり前など、永遠などありえないのに。

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