お姫様は海に恋い焦がれる
第3章 うさぎピンチ!二人きりの夜〜未来編〜
レイと大気がテレビゲームで対戦を始めた。亜美はドライヤーをかけながらページを操っていた本にのめり込み、眼鏡をかけて読書を始めた。火球皇女らもこんな時間にティーカップを傾けて、カフェインをとりながら談笑に耽っている。
こうした場ではひときわ目立つ女性の姿が、消えていた。
みちるは違和感に急き立てられて、ベランダへ向かった。
うさぎは、月を見上げていた。雲にぼやけた朧月が、その色彩を吸い込んだごとくの長い髪と白亜の肌に淡い炫耀を浴びせていた。
「うさ──」
「うっ」
みちるは弾かれるようにして口を抑えた。
月の女神が泣いていた。否、しゃくり上がるのを抑えた拍子にこぼれた声が、夜闇に逃げていったのか。
「…………」
みちるは、うさぎの肩に寄り添った。
華奢な肢体が慄いた。
細い腕。されどたくましいうさぎの腕に手のひらを伝わせ、みちるはその身体を捕まえた。
「誰……」
「分かってるくせに」
「──……」
「酷いんじゃなくて。……私を置いていくなんて」
「…………。だっ、て……」
うさぎにはうさぎの幸福がある。何十年も前の愛おしさを引きずって、みちるこそうさぎを苦しめている。
それでも、みちるにはこのぬくもりが離し難い。