お姫様は海に恋い焦がれる
第3章 うさぎピンチ!二人きりの夜〜未来編〜
* * *
いとけないクイーンが眠りに就くと、柔らかな指先をほどいていった。
みちるはうさぎの質感の残った手のひらを握り、彼女の実家より甚だ豪華な私室を後にした。
「どうも」
晦冥に控えていた黒い影が、愛想だけの笑顔をつくった。
うさぎに対する時とは随分な違いだ。
みちるは白々しい男の手前を通り抜けた。
「待って下さいよ」
「何か」
星野の顔は、かつてみちるが初めて同じステージに立った時のそれとは違っていた。
たとしえない憎悪の念が、端整とれたかんばせにはあった。
「無様なんだよ」
「何ですって」
「あいつの気持ちを分ってて、よく来られたものですね。オレ達が混じったから良かったものの……お団子の気持ちを考えたことありますか?」
「ええ。貴方よりは」
「だったら、──…」
「あの子をクイーンという名の人柱にしておけ、と?」
「っ…………」
それで構わなかった。
うさぎは月の住人だ。純白の力は全銀河に平安をもたらし、彼女自身の幸福も約束する。
だが、うさぎ一人では、この青い星の心まで掴めていた保証はなかった。地球の王子と生涯の誓いを交わしてこそ、その権力は確固たるものになる。そして、うさぎはスモールレディという娘を産んだ。後継者の誕生は、いよいよ国民達の希望を強めた。