お姫様は海に恋い焦がれる
第4章 生誕祭!うさぎ争奪戦
「よくご覧になって下さい。アイドルスリーライツの指を薔薇で傷つけ、昔懐かしアニメのようなBGMで登場した男性ですよ」
「綺麗な奥さん……貴女は純粋すぎます。ほら、よく見て……あのようにマスクを着用し、朝っぱらからスーツで屋根に上がるような不審者に、お嬢さんを任せられますか?」
はるかが育子のおとがいを持ち上げて、秋波を送った。
お前もスーツじゃん。星野の呟きを見逃さず、足先を踏みつけることも怠らない。
「あら素敵な人。だけど、あの人うさぎを知っているみたいですし……」
「ええ、ストーカーですもの。あのタキシードマスクは、昨夜八十二十二分三十五秒から、ずっとうさぎさんの家を観察していましたわ」
「ああ、ストーカーだ。あの男は、うさぎさんが昨夜八時五十分二秒にコンビニへ出掛けた時も、つけていって彼女の買ったのと同じアイスクリームを買っていた」
「…………」
「…………」
「み……みちるさん達も、昨夜からいたの……?」
「君達も同罪じゃないか」
うさぎと衛が同調したのは、久しい。衛は着地し、例の装束をといていた。
「うさこ」
衛がうさぎに小振りのブーケを差し出した。
「まもちゃん?」
「ハッピーバースデー、うさこ。十六歳、おめでとう」
懐疑を知らない青い瞳が、みるみる旧懐にたゆたい出す。
ミルク色の頰に浮かんだ花びらは深まり、開いては閉じ、閉じては開く唇が、その葛藤を暗示していた。