お姫様は海に恋い焦がれる
第1章 壊れてゆく運命を、リボンで
本当のところ、クイーンに言いつけられた責務はとっくに終わっている。
太陽系外部に迫った不吉の予兆、本来存在しないはずの黒点は、ネプチューンら調査を請け負った戦士全員、自然現象が所以しているのではないという結論に至った。強烈な生命反応、そして得体の知れない負の力が、太陽をとり憑いていた。恒星を殺めて星雲を灼いて、日に日に太陽系に接近している。月に差し響くのはおそらく遠い未来だが、ネプチューンら外部太陽系の戦士がクイーンに密命を下されるのは、けだし遠からぬ嚮後だ。
セレニティがリボンをもてあそんでいた。
気高くもあどけない深い青、薄紅を刷いたバニラの風味の花びらの頬は幻のようにきめこまやかで、感じやすくこまやかな、純一無雑のこの姫君の精神を、完膚なきまでに反映している。美しい青、真珠の色、セレニティを構成しているものは、過剰な優しさがあればこそ、恐ろしかった。
「失敗、しちゃった」
リップグロスの唇が、やはり可憐な声を紡いだ。
「リボンで縛りつけちゃえないかなって、……思ったのに。ネプチューンを。あたし、不器用だし」
「──……」
「縛っちゃえば、ネプチューン、ずっと側にいてくれるかなぁと思ったの。明日世界が終わっても、はぐれなくて済むかなって」
「…………」