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お姫様は海に恋い焦がれる

第4章 生誕祭!うさぎ争奪戦








 衛は悶々とデートを楽しんでいた。


 まもちゃんを好きなあたしの気持ちは、セレニティのものだったと思うの。


 そうした理由でうさぎに別れを告げられてから、三ヶ月は経っていた。以降も顔を合わせることはあれど、二人きりになったのは、今日が久しい。



 うさぎは相変わらず無邪気だ。

 プリンセスであった頃の記憶を取り戻したのは二年前、だが、月野うさぎという個人が生来持ち合わせていた華やかさから考えても、彼女が一般家庭に生まれ育ち、ありふれた学生生活を送っていたとはにわかに信じ難いほど、その存在感はたぐいない。
 瑞々しい淡雪の肌に、聖なる領域から掘り出されたばかりのごとくサファイヤの瞳、女神のような錦糸の髪──…うさぎのあどけない顔かたちはとりわけ美人と称されるみちるやレイとはまた違った引力があって、しかもその表情はよく動く。


 衛の隣ではしゃぐうさぎは、三ヶ月前と変わらない。

 大いに話し、大いに笑い、大いに食べる。プリクラ機の中では腕をまといつかせてきたくらいだ。


 そう言えば、まだ月と地球が疎遠だった時分、セレニティのエンディミオンを見る目は、妹が兄を見上げるそれに似通うものがあった。



 この優しく高貴な少女は、誰を見つめているのだろうか。

 うさぎのことだ、身の周りの誰をも必要としている、というのが彼女の意識だろうが、衛はそれでは納得いかない。

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