お姫様は海に恋い焦がれる
第4章 生誕祭!うさぎ争奪戦
まことしやかな噂では、みちるがうさぎに想いを寄せているのだという。うさぎも、彼女の前では恥じらうような素振りを見せる。
それでも今、うさぎは衛の隣にいる。
ハートのリングは返品されてしまったが、うさぎは衛の言葉に屈託ないリアクションを見せ、心おけない友人に対するように肌に触れ、その愛らしい声で「まもちゃん」、という愛称で呼びかける。
胸が満ちる。
満たされすぎて、容量はとっくにオーバーしている。
衛はうさぎを持て余していた。うさぎに薔薇を贈ることを思いつき、あわよくばとデートを持ちかけた数時間前の威勢はどこへやら。
「まーもちゃん」
「んんんん?!なななななんだ……ぅ、さこ」
「くすっ、まもちゃんってば変なのー。むむ?さてはなんか隠してる?分かった!まもちゃんも大学サボってるんでしょっ」
そうだ。衛は泥沼に嵌っていた。胸は激しく動悸している。
のべつ声をひっくり返す衛に愉快な笑い声を立てながら、うさぎが街をきょろきょろ見回す。
うさぎの行きたいところへ向かい、うさぎのやりたいことに付き合う。
衛は、それで満足だ。それで満足なこのひとときが、三ヶ月前は当たり前というわけではなかった。
このままではいけない。
みちるからうさぎを取り返せない。怪しげなアイドルグループのボーカルにさえ、横取りされる。
「うさこ」
「はゃっ」
衛はうさぎの片手をとった。
咄嗟の弾みでバランスを崩した姫君の上体が衛のそれに倒れ込む。
うさぎは、読み取り難い顔を伏せていた。
「プレゼント、買いに行こうか」
「ううん、いらない」
「誕生日だぞ」
「まもちゃんのくれた薔薇、綺麗だったから……」
だが、数ではみちるとはるかに負けた。
衛はうさぎに微笑んで、彼女が日頃贔屓にしているアパレルショップへ入っていった。