お姫様は海に恋い焦がれる
第4章 生誕祭!うさぎ争奪戦
演歌という地球独特の文化は、星野を存外に有利な方向へ導いた。
星野がこの歌唱法を心得たのは、いつだったかの番組収録の打ち上げ先で、先輩のアーティストに教わったお陰だ。
かくて今、星野は衛の場所を取って替わっていた。
腕にまとわるのはうさぎの甘い存在感。うさぎは衛に対するように星野に容易く触れてこないが、それでも、初めて逢った春に比べて、二人の距離は縮まっていた。
(お団子が彼氏と別れたのって……やっぱり……)
オレが原因か?
などと暢気な思いに耽られるのも、アイドルというなかんずく愛されやすい職業柄か。
星野はうさぎをアクセサリーショップに連れて入った。
衛が洋服を贈ったのであれば、星野は装飾品で勝負だ。
うさぎの意見に一字一句漏らさないで耳を傾け、店員にアドバイスを求めた。
そうして星野が買い求めたのは、ミルキーカラーの星が連ねてあるウサギのチャーム付きブレスレットと、折り畳み式ミラーだ。
ブレスレットはうさぎの希望を最優先して選んだものだ。
だが、ミラーはサプライズだ。先日、学校で前髪をチェックしていたうさぎが誤って愛用の折り畳み式ミラーを折ったところを、星野は見かけていたのである。
「星野有り難うっ。鏡までいいのに……でももらったゃう!大切にするわ」
「おう、オレだと思って使ってくれ」
「あははっ、星野ってばおもしろーい」
星野のいかなるアプローチも、うさぎの耳には友愛かジョークにしか聞こえないのか。
無邪気に立つ笑い声に些かの空虚を覚えながらも、星野は昼間の自分を何度も何度も褒めていた。
これで良い。
みちるのうさぎを見つめる目、そしてうさぎのみちるに対する何とも少女らしい表情──…。