お姫様は海に恋い焦がれる
第4章 生誕祭!うさぎ争奪戦
このところ、星野は春の頃うさぎと衛にいだいていた焦燥を、彼女とみちるにいだいていた。
銀河一身分違いな片想い。
みちるとてプリンセスと戦士という壁は超えられないかも知れないが、彼女は少なくとも月の王国の血を引いている。対する星野は、どこまでもうさぎとは別世界の人間だ。うさぎを愛している。愛していてこそ、この浮き橋のような関係が、実のところ心地好かった。
(けど、実際みちるさんと付き合うことになったら……多分やべぇな、オレ)
「わぁっ、綺麗な音楽ぅ」
うさぎのはしゃいだ感嘆が、星野の思考を打ち切った。
道行く人々が振り返る。優雅で高尚な旋律が、星野とうさぎを抱いていた。
「クラシック……?」
聞き覚えのあるメロディだ。
流れるように、潮汐波を折り重ねるように一本の旋律を奏でるヴァイオリンと、海を見守るようにしてたゆたう風──…ピアノの音色。
「…──!!」
星野の視界の片隅に、見知った二人の姿が触れた。
あいつら…………。
「行こうぜ、お団子。次はどうする?アイスクリーム入りクレープが?」
「わぁいっ、ちょうどお腹空いてたの!」
星野はそそくさと人混みを抜けた。
うさぎの注意をクラシックから遠ざけるには、甘いものが有効的だ。
みるみるギャラリーに囲まれていった奏者達は、生来のサービス精神を掻き立てられたのか、レモンを使った曲芸まで始めてしまった。