お姫様は海に恋い焦がれる
第4章 生誕祭!うさぎ争奪戦
歴史に残った名将たちの悲恋の楽曲を演奏したのに、うさぎはどこかへ行ってしまった。
「…………」
みちるとはるかに残されたのは、拍手喝采。そして通りすがりのギャラリー達だ。
特設ステージの真下では、最も熱心に拍手を送ってくれた老婦人が、満面の笑みでレモンを頬張っていた。
「お姉ちゃん達、別嬪さんねぇ。若いのに偉いわねぇ……」
「有り難うございます。おばあさん、いつまでもご達者で」
異星のアイドル達も脱帽モノであろう営業スマイルで、はるかが老婦人ににこりと笑った。
みちるは機材を片付けて、ディープアクアミラーを覗く。鏡の中では、うさぎが天にも昇るような顔でクレープを頬張っていた。
「鏡よ鏡……世界で一番うさぎに愛されているのは、だぁれ」
「みちる」
「──……」
タリスマンは話さない。
後方から、不必要に美しい声の返答がみちるの落胆を煽った。
「悩んでいても仕方ないだろ。まだ策はある。行くぜ」
「片恋も身分違いも横恋慕も弾いた。ブ◯ームスの『交響曲第1番第4楽章』、不倫まで弾いた。他に何が?」
はるかが次に出したのは、みちるも度肝を抜かれる提案だ。
だが、その根拠は、みちるの難色を論破するには十分だった。
星野にあって、みちるに足りなかったもの。それは言葉によるアプローチだ。
みちるははるかと場所を変えた。
あれだけ熱心にうさぎを尾行していたが、思えばみちるには鏡がある。物理的にうさぎを見失ったのはほんの束の間、二人の戦士はタリスマンに導かれて、いとも容易くプリンセスを探し当てた。